京ばし 松輪(京橋)
生きたアジから生まれるふっくら食感
誰もがよく知る料理ほど、魚の良さや違いが伝わるはず。魚自慢の割烹料理店が、アジフライ定食一本のランチを始めたのはそんな思いからだった。瞬く間に「アジフライの店」として名をとどろかせるようになり十余年。昼の行列は途切れることなく今日に至る。
東京湾で揚がるアジを生きたままおろし、一晩寝かせて使用。余分な水分を出しながら徐々に身が締まり、加熱した時にふっくらとした厚みが出る。刺し身で食べられる新鮮さゆえ、揚げ時間は一瞬。皿に盛り、テーブルへ運ぶ間に、余熱で火が入る計算だ。
香りの強いソースをかけると魚そのものの味が半減するので、大根おろしとワサビ、醤油でどうぞ、というスタイル。さっぱり、ツンと香るワサビの奥から、ジューシーな魚のおいしさがあふれ出す。中骨を揚げたせんべいが付くのも、ちょっと得した気分。
ポンチ軒(御茶ノ水)
ラード入りの油で揚げたサクッと衣が肝
とんかつの店として名高いが、前身は赤坂にあった洋食店〈フリッツ〉。その名残か、とんかつ以外の料理も評判が高い。メンチカツにクリームコロッケ、カレーなど、どれもきちんと作られた丁寧な味。アジフライもしかり。熱狂的なファンを持つ隠れた名物である。
まず、衣が旨い。粗めのパン粉をたっぷりとまぶし、しっかり色がつくまで揚げてある。かぶりつくとザクッと音がするほどの香ばしさだ。秘密はやはり“揚げ仕事”にあり。〈ポンチ軒〉では、とんかつは植物油で軽やかに、アジなどの海鮮類は、ラード入りの油を使い、高温、短時間で一気にリッチに揚げるのだという。アジは、よく脂がのった大ぶりのものが使われていて、パンチのある衣とのバランスが秀逸。食べ応えも大満足だ。卓上にはソースが2種、小皿でポン酢とタルタルソースが付くので好みの味つけで。