意見のズレを埋めて、交渉前の地固めを
これまで、交渉がうまくいかないと頭を抱える人を多く見てきましたが、そもそも、人と人の意見が食い違う理由は3つしかありません。
1つ目が、前提条件をすべて共有していない時や、事実認識が異なる時。相手のゴールが、短期的な利益か長期的な利益かを把握するだけでも、交渉内容は大きく変わります。
2つ目は、決め方や判断基準が不明確な時や、認識が違っている時。どのように決めるかという認識が食い違っていては、決まるものも決まりません。どのようなプロセスを経て決めるかを決定した後、選択肢に対してはどちらがより望ましいか、誰でも判断できるよう、あらかじめ基準を設けておく必要があります。
最後に、根底にある価値観が異なっている時。相手がこれまで、どんな環境で育ち、どんなキャリアを歩んできたかによって、話の進め方や給料のベースラインなど、交渉の場での振る舞いが大きく異なります。
より良い関係と結果を生む岩瀬流の交渉術
さて、ここからが総仕上げ。今日に至るまで、あらゆる規模の交渉にさまざまな立場から直面してきた自分なりの、良い合意形成に辿り着くための7ルールを紹介します。大袈裟な言い方をすれば、自分自身の経験を通じて得た知見、ノウハウから抽出した、交渉の極意です。
まずは、結論の決め方を決めておくこと。最後は社長が決めるでも多数決でも、全員が納得できるなら方法はなんでもいいと思います。ハーバード流交渉術で紹介されているのが、1枚のピザを2人で分ける際、切った人が後に選ぶ方法。そうすれば切るサイズが偏らず、公平な配分が可能となります。どの方法が正しいということではありません。
次に、根拠を掲げて提案すること。賃金交渉では、根拠を示すべきだという話をしました。納得感があることで相手が「YES」と言いやすいことに加えて、その方がフェアだから。その後の、より良好な関係構築につながります。
3つ目が、相手のプロファイルをできるだけ知ること。あまり情報がなければたくさん質問することです。それが難しい場合には、第三者に入ってもらうのもいいでしょう。相手の世界観を把握しておくことで、どんな話をしようとしているか、何を伝えようと考えているかを知る手がかりになります。
4つ目は、相手を知ったうえで、伝わりやすい言葉遣いをすること。普段、子供や高齢者と話す時、難しい言葉は選ばないですよね。相手に寄り添った言葉遣いを使い分ければ、交渉は格段にスムーズに進みます。
5つ目が、敬意を持ってはっきり主張すること。これは、日本人が不得意なことでもありますが、相手に意見を伝えることも反対することも、失礼なことではありません。相手の意見と個人は別物という意識で、ただし、敬意を払い主張してください。
6つ目が、決定プロセスは、外部にも説明できるように明確にしておくこと。これは以前、ライフネット生命保険の共同創業者である出口治明さんに教わったことです。たとえ、社外に出す予定がなくても、説明を求められて公表しなければならない際に、対応できるように。そうすることで、フェアで、双方が納得しやすいプロセスが実現します。
7つ目が、それぞれの立場を想像したコミュニケーションです。自分が相手の立場だったら何を気にするだろうか。心配事や喜びそうなことを想像して先回りして、時には花を持たせることも必要です。結局のところ、ハーバード流交渉術は、コミュニケーション術でもあるのです。
今朝、知り合いの社長から連絡をもらって新事業の相談を受けました。長い付き合いだったこともあって、その場で、「費用も利益も折半で行こう」と条件まですぐに決まりました。あっさりと、しかも電話のやりとりではありますが、これこそが交渉です。対立関係ではなく、友好的に効率的に合意形成に至っています。
いい結果を導けさえすればどんな交渉術も正解で、そこに優劣はありません。目先の数字や利益ではなく、どうすれば互いがハッピーになれるかをいつも心がけています。
交渉を成功に導く岩瀬流意思決定の7ルール
岩瀬さんがこれまでの経験から紡いだ、これだけは覚えておきたい交渉の極意。
- 最初に結論の決め方を決める。
- 条件は根拠を掲げて提案する。
- 相手のプロファイルをできるだけ知る。
- 相手に合わせた伝わりやすい言葉遣いをする。
- 敬意を持ってはっきり主張する。
- 決定プロセスは外部にも説明できるように明確に。
- それぞれの立場を想像したコミュニケーションを。