中村圭佑さんのトートバッグ
最もミニマルな表現方法で、個性が浮き出る。
ぺらっとしたトートバッグだから面白い。
遊休施設を合法的に占拠し、新たな価値を作り上げる活動〈SKWAT〉など、話題をさらう動きをし続ける中村圭佑さん。彼が学生時代から変わらず、こよなく愛する日用品はトートバッグだという。
「レジ袋が有料になる前から、毎日必ずカバンに入れて持ち歩いてます。家に200はあるんじゃないかな。なかでも海外製の柄が長い、ぺらっとしたやつが好み。スタイルが綺麗に見えるし、意外に頑丈なんです。頂き物も多いですが、もともとはミュージアム巡りが趣味で。トートだけはよく買って帰るんです。安くて、旅先でものを入れられてかさばらないなんて、すごく合理的で魅力的じゃないですか」
お気に入りはダミアン・ハーストが経営する〈ニューポート・ストリート・ギャラリー〉の品(写真①)。建物の外形をかたどったモチーフは、どこか〈SKWAT〉のHPにちりばめられたデザインを想起させる。
「トートバッグのデザインって最もミニマルな表現方法だから、作り手の個性が浮いて出るんです。そこが面白い。大抵は大量生産品なので、形にこだわっていて、かつグラフィックがいいものなんて、そうないんですよね。トートに限らず、“意志を感じられるもの”に惹かれます」
成瀬洋平の草履
ものが持つ、背景のストーリーも含めて、
思いの込められた手仕事の品を日常的に使う。
岐阜県中津川市の森の中に、山の風景を中心に描くイラストレーター・成瀬洋平さんのアトリエがある。2010年に東京からUターンし、セルフビルドでコツコツと建てた小屋だ。同じ敷地内には、築約25年の実家と、姉夫妻が営むパン店がある。そのどちらも、木工作家である父がセルフビルドした。
子供の頃から、建物までも自分で作る生活が普通だった。だからこそ、身の回りに置く日用品も、できるだけ作り手の顔が見えるものを使いたいという。
「工場で作られる大量生産品ではなく、作っている人がちゃんとわかる手仕事の品を日常的に使いたいと思っています。誰でもどこでもすぐに手に入る道具だけに囲まれた生活だと、さみしく感じてしまうんです」
アトリエの室内履きとして使っている「おえ草履」も、山形・庄内地方に住む90歳を越えたおばあさんが一つ一つ手で編んでいるものだ。
「これまでおばあさんが一人で作っていたのですが、この技術を残したいと、今は30代の女性も製作に加わっています。消えていきそうな手仕事を復活させるといったストーリーも含めて、人の思いが感じられるものに惹かれます。左右で形が微妙に違っているのも愛おしいですね」
鈴木 元さんのフラワーベース
求めたのはちょうどいい存在感。日常の中に
非日常の景色を作るフラワーベース。
プロダクトデザイナーの鈴木元さんが日用品に求める条件は、存在感がちょうどいいこと。「俳優でいうと名脇役。いい仕事をするけど主張しすぎないもの」が心地よく、その存在感の濃淡は普段デザインの仕事をするときに鈴木さんが最も注意深く扱ってきたテーマでもある。
そんな鈴木さんが愛用する日用品は花器。最近気に入っているのはフィンランドを代表するガラスデザイナー、オイバ・トイッカの手による「トゥントゥリッサ」。1980年代のわずかな期間にのみ製造された貴重なヴィンテージだが、数年前、近所のガラクタ屋で見つけたという。
「よく見ると表面は繊細な表情をしているけれど、たっぷりとした、子供の絵のような形が愛らしい」
玄関に置いているのは、ジャスパー・モリソンの「スリーグリーンボトル」。普遍的なボトルの美しさから生まれたもので「周囲の空気を柔らかくしてくれる」と鈴木さん。
最も長く愛用しているのは、イギリス在住時代に集めたミルク瓶だ。
「何を生けても無造作な雰囲気になるのがいい。花器は日常の中の非日常的な景色を作るものだから、ある程度主張した方がいいけど、でも花より目立っちゃいけない。そのバランスがとれた花器に惹かれます」