札幌から
世界のSoup Curryへ
スープカレーの発展を語るうえで外せないのが北海道大学周辺エリアだ。中でもインターネット黎明期という抜群のタイミングにオープンしたのが〈ピカンティ〉。北大生がインフルエンサー的な役割を担い、個人ブログなどもスープカレーの人気を一気に後押しする形となった。
2000年以降は、店舗数の増加とともに多様化が進み、食べ歩きブームが加速。03年には北海道旅行のガイドブックにスープカレー店が初めて掲載され、札幌の名物としても知られるようになる。そうした中05年にオープンした〈gopのアナグラ〉は、スパイスに精通した店主・久保田信さんの哲学に共感するスパイス好きの支持を集めた。
一方で08年にオープンした〈ソウル ストア〉は、野菜の味やビジュアルなど料理としての精度を高め、「ヘルシー」や「SNS映え」を意識。スープカレーをグルメなものとして深めていく動きが出てきたのだ。
その間、北海道物産展やテレビなどでスープカレーが全国的に知られるようになると、首都圏でも札幌スタイルのスープカレー店が急増する。さまざまな要因はあるものの、全国でブレイクしたのは、北海道出身の俳優、大泉洋さんの影響によるところも大きい。
04年に自身が監修したレトルトカレー《本日のスープカレーのスープ》、エッセイ写真集『本日のスープカレー』を発売。スープカレー愛を語るなど、ブームを後押しした。
現在では、スープカレーが札幌発祥ということがわからないほど、地域に溶け込み、香港やシンガポールなど海外にも進出する。近年では、“札幌スパイスカレー”という新ジャンルも登場。発展と進化は止まらない。もはやラーメン超えのトレンドとなるのも、そう遠い未来の話ではないのかもしれない。
Picante
(2000〜)
人と時代の流れにうまく乗って
発展させてきた珠玉の一皿
1996年に北24条駅周辺に開店した〈Voyage(ヴォイジュ)〉(現在は閉店)のオーナーの須藤修さんが、北海道大学により近い場所で2000年にオープン。〈ヴォイジュ〉では、インドで覚えた須藤さんのカレーを、客である北大生の意見をもとに積極的に改良し、独自の味へと進化させた。
そのノウハウが詰まった〈ピカンティ〉は、たちまち人気店となり、不動の地位を確立している。須藤さんの柔軟な発想力と行動力は今なお健在で、新しい素材を使ったメニュー開発やテイクアウトカレーの品質改良などアイデアは尽きない。
gopのアナグラ
(2005〜)
自分の作りたいカレーで心を掴む
スパイスのマエストロ
〈スリランカ狂我国〉で修業後独立した店主が作るカレーには、「スープの旨味が強いとわかりやすい味になるけれど、その分スパイスの風味は弱まる。僕はスパイスの変態なので、わかりにくい味になる(笑)」と語るように、複数のスパイスの効かせ方や強弱など、見た目では想像がつかない緻密なオーケストラが編成されている。
毎週末は限定カレーが登場。味の変化が楽しめる副菜もバラエティに富み美味。カレー好きなら全種類トッピングできる「オール」がおすすめ。年々自由度を増すスパイスの旋律に酔いしれたい。
SOUL STORE
(2008〜)
素材の味、食感、見栄えで
スープカレーを格上げ
店主の清水元太さんは、大学の卒論でカレーを題材にしたことをきっかけに料理の世界に興味を抱き、和食やエスニック料理、スープカレー店で修業後、2008年に独立。当時のスープカレーは「どちらかというとB級のイメージが根強く、具材も決まりきっていた印象だった」と言い、「組み合わせの自由度を高めて、素材を一つ一つおいしく調理すれば独自性も出てレベルが高い一皿になる」と振り返る。
店のシンボルともいえる揚げゴボウの味、食感、見栄えすべてに料理人の技を込め、料理の一部と考える盛り付けにも美学を貫く。
札幌スパイスカレー誕生!
大阪スパイスカレーの広がりが生んだ「札幌スパイスカレー」という新たなカテゴリー。提唱者は、“スパイスカレー三銃士”を名乗る、〈黒岩咖哩飯店〉〈E-itou Curry〉〈のんびりスパイス酒場harappi〉の3人。さらに、今回紹介する〈ニシジルシ〉ような別のコンテクストで、大阪にインスパイアされた新たなるカレーも登場。
厳密な定義はないものの、ルーをベースにしたものから、だし感あふれるものまで、多様なスタイルで、札幌のカレーシーンにもスパイスを効かせる存在に。