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多くのファンに愛される、久留米生まれのオールスター

なぜ80年代製で、なぜ日本製が愛されるのか。どちらも欠けては成立しない、2つの理由がある。

Photo: Natsumi Kakuto / Text: Masayuki Ozawa

MADE IN JAPANの底力。

国内で購入できるコンバースのオールスターのほとんどは、インドネシア製。2001年に米国ノースカロライナ工場が閉鎖された際に主要生産地の一つに選ばれた。アメリカから生産責任者を招き、ソールのゴムの配合比率から必要な設備まで、すべてが忠実に引き継がれている。物欲を高める魔法の言葉「メイド・イン・USA」のコンバースの生産は終わってしまったが、オールスターに関しては90年代以降に培われたスペックやスピリットは完璧に継承されているのだ。

その中で日本のコンバースでは、80年代に作られていたアメリカ製をベースにした「メイド・イン・ジャパン」のオールスターを展開している。生産は、福岡の久留米にあるムーンスター社。約100年前にアメリカ製のキャンバスシューズに感銘を受け、ゴム底をゴム糊で貼り付けた地下足袋の製造で有名になったシューズの老舗だ。オールスターの代名詞ともいわれるバルカナイズド製法で生産するための設備を国内で保有する、稀少なファクトリーでもある。しかしなぜ80年代製で、日本製なのか。それはどちらも欠けては成立しない、2つの理由があるからだ。

80年代当時のラストが
久留米に保管されていた。

一つは下がり気味のトウルッキングやシャープな木型、小さくて尖り気味の半円状のラバーなど往時の特徴を多くのヴィンテージファンが欲していること。もう一つは80年代のオールスターを作れる環境が、このムーンスターに残っていること。1980年、ムーンスターの高い技術を評価した米国コンバース社は、日本国内におけるライセンス契約を締結。その際に徹底した作り方の指導がアメリカからあったという。当時の木型が現存していたことも後押しして、生産に踏み切ったというわけだ。

年代でフォルムやディテールが異なるヴィンテージには、微細に入り込むことで大きな価値を見出すことができる。しかしどんなに機械が優れていても、AIが発達したとしてもそこに漂うロマンを滲み出させることは不可能だ。充実した設備や設計図があったことはもちろん大きな理由の一つだが、工場で働く職人の深いオールスター愛と繊細な手があるから、日本製のコンバースは多くのファンに愛されているのだ。

①アウトソールのデザインは誕生からほぼ変わらない。②80年代当時に青枠&青字だった「CONVERSE」の囲みロゴは日本の国旗をイメージして赤に変更。③アッパー踵部を縦に補強するカカトヒモ。④アッパー側部のキャンバス。⑤踝の保護に考案された象徴のアンクルパッチ。1969年から変わらないデザイン。⑥先端のわずかな切れ込みは、左右を識別するための目印。⑦緑の文字の「MADE IN JAPAN」はオリジナルを踏襲。⑧80年代のヒールラベルは「MADE IN U.S.A.」だった。⑨弧を描くように貼る先端の補強用テープ。60〜70年代は左右の長さが異なっていたが、80年代は対称に。⑩靴紐を通すハトメ。⑪フォルムを安定させるヒール内側の補強材。⑫爪先のラバー部分。木型に釣り込みする際に素材が重ならないよう計算されてカットされている。⑬14のシタテープの上に巻きつける“マワシ”テープ。⑭シタテープの幅とアッパーのバランスが靴の印象を決定づける。⑮現行にはないコットンのシューレースがヴィンテージ感を高める。