日本上陸60周年の〈ヒルトン〉、進化する“おもいやり”ヒストリー
1919年、コンラッド・ヒルトンが米国テキサス州で創業し、現在世界で22のブランドと約7,400軒のホテルを展開するホスピタリティ企業〈ヒルトン〉。1963年、日本初の外資系ホテルとして〈東京ヒルトン(現・ヒルトン東京)〉を永田町に開業し、今年で60年の節目を迎えた。
「中華料理の食べ放題」や「デザートビュッフェ」など、〈ヒルトン〉には多くの“日本初”の試みがあり、高度経済成長を遂げる日本に、一流ホテルのホスピタリティを文化として根づかせた立役者でもある。目指すのは、ゲストが必要とするものを理解し、チームメンバー自身の裁量で行動するホスピタリティ。それはおもてなしの心よりも積極的で温かな、“おもいやり”のアプローチだ。ステイを最高の時間にするため、〈ヒルトン〉のおもいやりは進化を続ける。
CONRAD TOKYO
大胆なアートと温かな時間が待つホテル
テーラーメイドのディナーで“おもいやり”を体感する
2005年、アートをテーマにしたホテルの先駆けとして誕生した〈コンラッド東京〉は、自分にとっていつも憧れのホテルだった。1階のエントランスからエレベーターに乗り、28階のロビーに到着すると、一瞬で別世界へと誘われる。眼下には浜離宮恩賜庭園の深い緑。館内はホテルの世界観を表現したオリジナルのアロマが漂っていて、甘く少しオリエンタルな香りを感じるたび、再訪の喜びに満たされる。
午後の陽光の中で篠田桃紅の壁画「人よ」に見惚れていると、「お久しぶりですね」と、チーフコンシェルジュの野武宏仁さんがにこやかに声をかけてくれた。チェックインの瞬間から自分の名を呼んでくれるきめ細かで親しげな接客に、いつも魅了されるのだ。
「ラグジュアリーでも緊張させず、フレンドリーでいて決してカジュアルすぎないこと。その誠実な距離感と温かさが好きだ、とお客様によく言っていただくのですが、それが〈コンラッド〉らしさなのかもしれません」と野武さん。
ホテルのチームメンバーはゲストの生年月日や服装などの情報から、常にサービスのきっかけとなる“ゴールデンナゲット(金塊)”を探すという。海外の常連客に提示されたパスポートから誕生日に気づき、客室にバースデーケーキをそっと届けたことも。定められた基準をクリアし、認められた者のみが会員となれる世界的コンシェルジュ組織〈レ・クレドール〉に、野武さんら3名が在籍する(*2023年10月現在。)のも高いホスピタリティの証しだろう。
さて、本日は、モダンフレンチ〈コラージュ〉でディナープラン「アズ・ユー・ウィッシュ」を予約。影山拓磨シェフが3週間をかけ、私たちゲストとやりとりしながら作り上げるテーラーメイドのフルコースだ。「パートナーの誕生日を、思い出の食材で祝いたい」というリクエストへのメインディッシュに登場したのは、互いの故郷の素材を使った美しい一皿だった。
「お2人の出身地である北海道と静岡の素材を、フランス(トリュフソース)が繋げ、お皿の中でマリアージュさせるイメージですね」と影山シェフ。
プランにはオープンキッチンの目の前にある個室が用意され、シェフが自ら料理を運び、説明をしてくれるのも贅沢な特典だ。さらにトリュフソースを引き立てる、ナパ・ヴァレーのリッチな味わいのカベルネ・ソーヴィニヨンを富滿勇希ソムリエが見立ててくれた。ソムリエまでも協力を惜しまない心遣いに、〈コンラッド〉の“おもいやり”の懐深さを体感する。締めくくりは誕生日のメッセージが書かれたデザートプレート。これもホテルとシェフからの嬉しいサプライズだった。
レストランを後にし、バー&ラウンジ〈トゥエンティエイト〉へ。バーマネージャーの田中大智さんによる、まるで香水のように香りを構築したカクテルを味わい、ディナーの余韻に浸る。これこそスペシャルな夜にふさわしいエンディング。やはり人生で大切な夜は、信頼できるチームのいるこんなホテルで過ごしたいと思うのだ。
CONRAD OSAKA
地上200mに広がる天空のエクスペリエンス
圧倒的空間と格別の食体験が、特別なステイを作る
今度の出張では〈コンラッド大阪〉に泊まると決めていた。1年仕事に励んできたご褒美、いや、これも自分への“おもいやり”と言うべきか?
2017年のオープン以来、40階に広がるあのダイナミックでモダンな空間デザインには、何度訪れても圧倒される。3フロアを吹き抜けにした16mもの天井高、優美な曲線を描く螺旋階段、そして最上階でゲストを出迎える、彫刻家・名和晃平による約5mの「Fu / Rai」像の存在感。
地上200mのロビーに着き、ホテルのテーマである「Your Address in the Sky(天空のアドレス)」そのものの眺望に感嘆しつつチェックインを済ませると、その足で同僚とアフタヌーンティーへ。〈コンラッド〉は東西ともにアフタヌーンティーの人気が高いが、大阪にはセイボリー(塩味の菓子や軽食)を中心にしたメニューがある。各レストランのシェフによる一品が集結した味わいは当然ながら“泡”を呼び、たまらずグラスシャンパンをオーダーしてしまう。
初の“ヌン活”(アフタヌーンティーを楽しむ活動)に大満足し、荷ほどきに客室へと向かう。60㎡超の空間と大阪を見渡す眺望に思わず声を上げた。テーブルには総支配人からのメッセージカードやホテルメイドのショコラなどが行儀よく並ぶ。心尽くしのウェルカムアメニティを楽しんでいると、不意にベルが鳴った。いつしかターンダウンの時間になっていたのだ。ネパール出身だというスタッフのスニルさんが、ベッド周りの設えを整え、私好みの柔らかな枕をセットし、最後に「長距離の移動で疲れたでしょう」と、カモミールティーを用意してくれた。
窓外が夕暮れに染まり始めたら、アペロ(食前酒)の時間だ。40階の〈40スカイバー&ラウンジ〉で「Takoyaki in the Sky」なるシグネチャーカクテルを嗜み、大阪気分を盛り上げる。
そして今夜のディナーは、魅力的な2人のシェフが腕を振るう薪焼きシーフードレストラン〈C:GRILL〉へ。まずはレストランの一角に牡蠣のシーズンだけ登場する〈オイスター・バー〉へ行き、アメリカ出身の料理長、クリストファー・ホートンさんが調理する岩牡蠣を堪能する。〈C:GRILL〉の看板コースは、兵庫の〈弓削牧場〉のチーズや京都・宇治の平飼い卵「WABISUKE」など山田智樹総料理長が探し出した地元素材が生かされ、一皿ごとに発見がある。帰り際、ホートンさんに薪焼きの魅力を尋ねたら、「薪火で作る料理は炎とダンスしているみたいです」と嬉しそうに答えてくれた。
枕の柔らかな寝心地に、ターンダウンの気遣いを感じながら、キングサイズのベッドで眠りに就く。薄れていく意識の中で、ふとバーのコースターに書かれていた「NEVER JUST STAY. STAY INSPIRED.」というメッセージを思い出す。ただ泊まるだけでない、特別な体験に満ちたステイこそ〈コンラッド〉の願い。チームメンバー一人一人が紡ぐホスピタリティが、こんな幸せな時間をもたらしてくれるのだ。