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郷古隆洋が世界各地から蒐集した、たくさんの「物」。2拠点居住で初めて得た、帰省する場所

今日は一日家にいる。そんな日は、心がふさぐ一日ではなく、心が解放される一日でありたい。窓からの景色にホッとしたり、いつものダイニングテーブルで一息ついたり。そこに好きな本や音楽があれば最高。平凡で穏やかな日々を称えたい今だからこそ、家のことをもっともっと好きになって暮らしたい。

Photo: Keisuke Fukamizu / Text: Tami Okano

東京の家はそのままに、太宰府との2拠点居住をスタート

蒐集家であり、国内外のヴィンテージ雑貨を販売するスイムスーツ・デパートメントの郷古隆洋さんが、ここ福岡の太宰府に住まいを設けたのは2017年のこと。東京の家はそのままに、太宰府との2拠点居住をスタートさせた。

「結婚して子供が生まれたことがきっかけですが、もともと、国内にもう一つ拠点を持つなら、福岡と決めていました。もの作りの歴史から見ても九州は面白いし、羽田─福岡間は飛行機の便数が多く、行き来にストレスはありません。太宰府は町の気がいいし、何がいいって、野菜がおいしい」と、骨董の目利きは町の野菜直売所の素晴らしさを一番に語り、ここに住み始めてから、集めた器を使うのが楽しみになったと話す。

住まいは妻の淑美さんの両親が20年ほど前に建てたマンションで、内装は壁紙以外、建てられた当時のままを引き継いだ。「オーダーメイドの赤いシステムキッチンやカリン材の光沢のあるフローリングなど、ちょっとポストモダンっぽい雰囲気も良くて、改装は全く考えませんでした」

仕様は変えずとも、この部屋を「郷古さんの家」にしているのはやはり、世界各地から蒐集したたくさんの「物」だ。古い陶器や張り子人形など、貴重で壊れやすいものも多いが、それらは子供の手の届くところにも飾られている。

「息子は今2歳ですが、生まれたときから割れ物、壊れ物が周りにあるからか、乱暴には扱わないし、壊したこともない」うえに、自分のミニカーも向きを揃えて両手で並べるというのだから驚く。

物に囲まれる暮らしは独身時代と変わらないが、家のために選ぶ物は以前よりハートウォーミングなものが増えた。居間の壁には子供が生まれてから買った「HOME SWEET HOME」の看板も。

「僕は生まれも育ちも東京で“帰省”という感覚が今まではわからなかったけれど、太宰府の家は僕にとって初めての帰省する場所。たくさんの物を見るために国内外の骨董市やギャラリーを飛び回り、この家に帰ると、ホッとします」

ヴィンテージ雑貨を販売する〈スイムスーツ・デパートメント〉を運営する郷古隆洋さんの自宅リビングのキッズコーナー
リビングの一角に設けたキッズコーナー。壁の「HOME SWEET HOME」の看板は旅先のアリゾナで見つけ、この家用に持ち帰った。