2016年、都内にある緑豊かな公園のすぐ横に新しい事務所兼自宅を構えた。前の家のガラスのキャビネットは飾るサイズに限界があり、新しい家では大きな造り付けのガラス張りの棚を造ろうと2人の意見が一致。マナさんいわく「ガラス越しに見るとモノがスペシャルな存在になるから不思議。普段使いのものがどれも素敵に見えるんです」。図らずもギャラリーのような雰囲気になった。
扉を開けると小さなキッチンがお目見え。２階のリビングでお茶やお酒を楽しむとき用に造った。食器や普段使いする道具は生活感が出すぎてしまうので収納型にして目隠し。使うときだけ開く。ここで簡単な料理も対応可能。 
壁一面に設えた大きなガラス棚の右側に置かれているのは、テキスタイルデザイナー石本藤雄の作品。少しずつ集めてきた十数点の陶板が並ぶ。「これまで大きくて飾れなかったものをここにディスプレイしています」（恭さん） 
「気がついたら我が家には陶器が多い。質感の良いものが好きだからかな」と恭さん。陶器の鳥のオブジェは作家名は不明だが独特のフォルムが魅力。仕事で訪れたシアトルで購入した。上にあるのは陶芸家・島岡達三の湯飲み。 
２０１３年から鹿児島さんの展覧会の会場構成を担当している２人。そのご縁もあり、展覧会では毎回１人３枚ずつ購入。カラフルな絵付けと不思議な質感。独特の世界観に惹かれる。こちらは扉付きのガラスの食器棚に置いている。
一方、2人が暮らしの中で選ぶものの基準を問えば「新鮮なもの」。作られた年代にかかわらず、“新しい”と思えるかだという。
「ノスタルジーは好きじゃない。古いものもアンティークも好きだけど今見て新鮮かどうかですね」と恭さん。だからか、小林家にあるモノたちは、古今東西、国も年代もバラバラだが不思議と統一感があり、空間に調和している。
猫対策にと前の家で使っていたガラスのキャビネットは自分たちでデザインしたもの。中にはフィンランドの陶器、民芸品のうちわ、美術家・谷山恭子のマルチプル、祖父の形見のカップ＆ソーサーまで、お気に入りのものが並ぶ。 
メキシコのフォークアートは〈イデー〉で購入。踵がドットになった〈アンリアレイジ〉のハイヒール。履けるが今は鑑賞用。奥の白いジャーは〈BOCH〉アンティーク。サキソニー柄はマナさんが20代の頃から集めている。 
自宅の内装デザインでは、グレーやベージュのコンクリートの型枠合板を扉や引き戸に多用した。小口を出した合板が家全体の基本ディテール。そこにオーク材の取っ手や真鍮のネジを使うなど、色使いと異素材ミックスが特徴。 
ガラス張りの棚の左側には造形作家・古賀充の作品やアーティスト松林誠の絵画などを陳列。手前は〈バング＆オルフセン〉のスピーカー。ポップなもの、カラフルなものも好き。「見ていて気持ちよいものがいい」とマナさん。 
１階が事務所、２階がプライベートな住居という造りの小林家だが、キッチンは１階に。奥はミーティングスペース、手前が事務所。その間をつなぐ場所に配されたキッチンは、通り抜け可能でスムーズな動線が確保されている。
猫対策からスタートしたが、見せる収納が好きな2人にとって、モノが生き生きと見えるガラス張りの棚は今やこの家の必需品。
「夜はここに照明をつけて、お酒を飲みながらぼんやり眺めていると本当に気持ちいい」とマナさん。大きな床の間のような棚の存在がモノたちとの付き合いを一層楽しいものにしてくれる。
