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世界からお届け!SDGs通信 トロント編。地球の1/5の地表水を有するオンタリオ州の水源保護策

毎号、世界中から届いた旬の話題を紹介しているBRUTUS本誌の「ET TU, BRUTE? CITY」から出張企画。世界中の約30都市から、今一番ホットなSDGsに関する取り組みをお届けします。今回はトロントから!

text: Hatsuki Matsui / edit: Hiroko Yabuki

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悲劇を繰り返さないために厳格管理!水質維持にアメリカとも協定を締結

2000年5月に起きた「ウォーカートンの悲劇」。トロント市内から北西に車で2時間ほど離れたオンタリオ州ウォーカートンという町で、7人の死者と2,300人以上の重症者を出した水質汚染事故だ。このような悲劇を二度と起こさぬよう、州は各自治体と結束し水質改善に努めてきた。2006年に浄水法が制定され、水源の保護、処理、検査、分配など、各項目でマルチバリア的に厳しく管理される。管理の徹底により事件から23年が経過した現在も良好な水質状態を維持し、水道水も安心して飲用できる。

安全な水を供給するために最も大切なことは、水源を美しく保つことだ。オンタリオ州には25万以上の湖があり、世界の地表水(地球上で飲料などに使用可能な淡水)の1/5がこの地に集結している。水源が多いため一括した水質管理は難しく、各自治体や住民が水質管理意識を持つことが重要。水源近くを飲料水保護区域に定め、州内に800個以上の保護標識を掲げる。そこでは農薬、殺虫剤、洗浄力の強い洗剤などの使用を制限し、家庭用灯油や家畜の糞尿の管理徹底を呼びかける。

隣接するアメリカとの協力も必須だ。カナダとアメリカに接する五大湖(スペリオル湖、ミシガン湖、ヒューロン湖、エリー湖、オンタリオ湖)の水質悪化が懸念され、1987年に両国間で五大湖水質協定が締結された。生態系、魚の風味、プランクトンや藻類、飲料水の味の変化など全14の基準において懸念地域を調査し水質改善を促す。2023年現在、締結時に定められたカナダの17の懸念地域のうち3つが元の美しい湖に復元されたが、残る地域の改善にも努めている。

浄水技術の向上は人類の誇るべき叡智である一方、水源自体の美しさを求めるオンタリオ州の試みは、人類にも環境にもメリットがある最も重要なソリューションである。

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