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シネマコンシェルジュの映画監督論:ビニールタッキー 「物語に巧みに落とし込まれた、監督の手腕と姿勢に惹かれる。」

巨匠から新鋭まで、素晴らしい監督たちが次々と登場する今、観るべき監督を知るには、やっぱり信頼できる映画通の後ろ盾が欲しいもの。独自の審美眼で映画シーンを追いかけ続ける30人に頼ることに。

Illustration: Thimoko Horiguchi / Text: Yoko Hasada, Aiko Iijima, Saki Miyahara, Konomi Sasaki / Edit&Text: Emi Fukushima

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映画好きビニールタッキー へ7つの質問

Q1

あの監督の虜になった名シーンは?

ビニールタッキー

ギレルモ・デル・トロ監督『パシフィック・リム』の戦闘シーン全般。KAIJUの登場シーンから皮膚の質感、そして巨大ロボット・イェーガーの個性的な見た目や細かいギミックなどフェチに溢れたセンスの虜です。

Q2

好きな監督のベスト作品は?

ビニールタッキー

アントワン・フークア監督の『イコライザー2』は「若者への説教」として真骨頂。スター俳優デンゼル・ワシントンを通して、若者に希望を与えたと思います。

Q3

好きな監督のイマイチだった作品は?

ビニールタッキー

ジョーダン・ピール監督の『アス』。発想と恐怖がうまく噛み合っていないような。

Q4

最近になって魅力的に感じるようになった監督は?

ビニールタッキー

リー・ワネル監督。『アップグレード』『透明人間』での現実の恐怖を典型的なホラーに落とし込むセンスにハマりました。

Q5

あの監督に撮ってほしい、意外なテーマは?

ビニールタッキー

アリ・アスター監督に日本の因習・奇習を描いた作品で世界を驚嘆させてほしい。彼は溝口健二、新藤兼人、今村昌平ファンを公言していて意外性はないですが。

Q6

個人的に今気になっている監督は?

ビニールタッキー

ジェニファー・ケント監督。『ナイチンゲール』等での容赦ない暴力描写に込めた真摯なメッセージに惹かれます。物語の考証や出演者のケアにも抜かりないところもとても好感が持てます。

Q7

将来が楽しみな次世代の監督は?

ビニールタッキー

オリヴィア・ワイルド監督。第1作『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』は多様性や社会問題の描き方が素晴らしく、新時代の青春映画が生まれた!ととても興奮しました。

2010年以降の「この監督のこの一本」。
クロエ・ジャオの『ザ・ライダー』

現代的な社会問題を巧みに取り込む、期待の女性監督。

 アメリカ中西部サウスダコタ州のカウボーイの青年、ブレイディはロデオ競技中の事故で頭部に大けがを負う。体には後遺症が残り、医師からドクターストップを受ける中、ロデオライダーとして再起に挑む。まるで西部劇のようなサウスダコタの広い空と大草原がブレイディの孤独な魂を包む。

彼が暴れ馬を少しずつ手なずけていく様子をワンカットで捉えるシーンは“本物”を観ている高揚感があり必見。家族や友人に対して人当たりのいい彼が「自分にはロデオしかない」と思い悩む姿は胸を打ちます。そんな彼が最終的に下す結論には思わず涙が……。

「男らしくて当然」なカウボーイの世界を中国出身の女性監督クロエ・ジャオが作ることに深い批評性を感じます。セリフや音楽が極端に少ないドキュメンタリーのようなタッチで奥行きのあるドラマを描き「家父長制」や「有害な男性性」といった現代的なテーマを浮かび上がらせる手腕に驚かされます。ちなみにエンドロールまで観るとこの映画の特殊な構造が見えてくるので極力前情報は入れずにご覧ください。

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