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シネマコンシェルジュの映画監督論:長谷川町蔵「無秩序さと真っ当さが共存する作品作りの姿勢に惹かれる。」

巨匠から新鋭まで、素晴らしい監督たちが次々と登場する今、観るべき監督を知るには、やっぱり信頼できる映画通の後ろ盾が欲しいもの。独自の審美眼で映画シーンを追いかけ続ける30人に頼ることに。

Illustration: Thimoko Horiguchi / Text: Yoko Hasada, Aiko Iijima, Saki Miyahara, Konomi Sasaki / Edit&Text: Emi Fukushima

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映画好き長谷川町蔵へ7つの質問

Q1

あの監督の虜になった名シーンは?

長谷川町蔵

コリン・トレボロウ監督『彼女はパートタイムトラベラー』のラストシーン。スティーヴン・スピルバーグはこのシーンを観て『ジュラシック・パーク』の新シリーズを委ねる決心をしたそう。

Q2

好きな監督のベスト作品は?

長谷川町蔵

ライアン・ジョンソン監督『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』。デビュー作『BRICK ブリック』にヤラれた自分的には堂々の原点回帰作。

Q3

好きな監督のイマイチだった作品は?

長谷川町蔵

ウェス・アンダーソン監督『犬ヶ島』。圧倒的なビジュアルセンスとエモさの絶妙なバランスが彼の魅力だが、近作には後者の要素が減退しているので。

Q4

最近になって魅力的に感じるようになった監督は?

長谷川町蔵

カリン・クサマ監督。『ガールファイト』でミシェル・ロドリゲスを発掘して以降いいところなしの印象ながらも『ストレイ・ドッグ』には惹きつけられました。

Q5

あの監督に撮ってほしい、意外なテーマは?

長谷川町蔵

『ズーランダー』のセリフをすべて暗記している(実話)テレンス・マリック監督なら耽美な映像はそのままに面白いコメディを撮ってくれる気がします。

Q6

個人的に今気になっている監督は?

長谷川町蔵

ブーツ・ライリー監督。彼の『ホワイト・ボイス』の方が同じ題材の『パラサイト 半地下の家族』より何倍も素晴らしい。

Q7

将来が楽しみな次世代の監督は?

長谷川町蔵

デイヴ・マッカリー監督。現在スタッフを務めているTV番組『サタデー・ナイト・ライブ』を卒業した後は、妻のエマ・ストーンを主演に素晴らしいコメディを撮ってくれるはず。

2010年以降の「この監督のこの一本」。
エヴァン・ゴールドバーグ、セス・ローゲンの『The Interview(原題)』

冷笑とは一線を画す、監督の笑いへの姿勢。

 独裁国家の指導者のインタビュー権を得たアメリカ人司会者とプロデューサーの珍道中を描いた本作は、いかにもこのコンビらしく下ネタだらけ。日本で劇場公開どころかソフト化すらされていないのは、そうしたギャグが問題ではなく、劇中の独裁者が実在する北朝鮮の金正恩だからだろう。

本作公開決定後、アメリカ本国では謎のハッカーによって製作会社のサーバーがハッキングされる事件が発生している。つまり本作は、テン年代のチャップリン『独裁者』なのである。ただしそうした社会的意義を抜きにしても本作は素晴らしい。

主演のジェームズ・フランコはクライマックス・シーンで一世一代の名演を見せてくれるし、ランドール・パーク扮する金第一書記も独裁者の悲哀を滲ませている。そして散々笑いのめしながらも北朝鮮という国家に対して「いつかは自力で正しい道を歩むはず」と温かい眼差しを向けているところに、エヴァンとセスの真っ当さを感じる。アナーキーではあるけど冷笑とは一線を画したこのアティテュード。これこそがこのコンビ最大の魅力なのだ。

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