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シネマコンシェルジュの映画監督論:てらさわホーク「変貌していく人間を最後まで描き切る、その強さに惹かれる。」

巨匠から新鋭まで、素晴らしい監督たちが次々と登場する今、観るべき監督を知るには、やっぱり信頼できる映画通の後ろ盾が欲しいもの。独自の審美眼で映画シーンを追いかけ続ける30人に頼ることに。

Illustration: Thimoko Horiguchi / Text: Yoko Hasada, Aiko Iijima, Saki Miyahara, Konomi Sasaki / Edit&Text: Emi Fukushima

映画好きてらさわホークへ7つの質問

Q1

あの監督の虜になった名シーンは?

てらさわホーク

ウィリアム・フリードキン監督『エクソシスト』の冒頭。野犬が吠える砂塵のなか、老神父と古の悪魔像が対峙する。あまりに不穏だが死ぬほど格好いい。

Q2

好きな監督のベスト作品は?

てらさわホーク

『ランボー 最後の戦場』。監督シルヴェスター・スタローンの大暴力映画の金字塔。作り手としてももっと評価されてしかるべき。

Q3

好きな監督のイマイチだった作品は?

てらさわホーク

テレンス・マリック監督の『天国の日々』は大好きだが、その後20年ぶりに撮った『シン・レッド・ライン』以降、この人の映画には毎度困惑させられる。

Q4

最近になって魅力的に感じるようになった監督は?

てらさわホーク

ザック・スナイダー監督の茶色く煮しめたような画作りにはだいぶ辟易していましたが、『ジャスティス・リーグ』スナイダー版の予告を観て「これよ!これ!」と嬉しくなりました。

Q5

あの監督に撮ってほしい、意外なテーマは?

てらさわホーク

マーティン・スコセッシ監督か、ポール・ヴァーホーヴェン監督の戦争映画。下衆な連中ばかりが次々に出てきて、バイオレンスが炸裂するような超大作……全然意外じゃないですね。

Q6

個人的に今気になっている監督は?

てらさわホーク

永山正史監督の『天然☆生活』は冷静かつとぼけた様子で変な人を描く映画、と思えば異常な出来事がボカンと起きて度肝を抜かれた。早く次回作が観たいです。

Q7

将来が楽しみな次世代の監督は?

てらさわホーク

『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』のオリヴィア・ワイルド監督。出演作を観ていた時は、こんなに映画作りのうまい人とは想像もできなかった。

2010年以降の「この監督のこの一本」。
キャスリン・ビグローの『ゼロ・ダーク・サーティ』

徹底的に描かれた、共感し難いほどの人生の遷移に驚嘆。

人間が何かにのめり込んだ末、いつしか常識の向こう側に行ってしまう映画が大好きだ。例えばウィリアム・フリードキンの作品はいつもそんな話で、すっかり感情移入していた主人公の目つきが、ある瞬間から明らかにおかしなことになっていたりする。

ビン・ラディン捜索に異常な執念を燃やす女を描いた『ゼロ・ダーク・サーティ』にもそうした、もう後戻りできない地点で足場を外されるような感覚があった。ジェシカ・チャステインの演じるCIA職員は、最初のうちこそ目の前で繰り広げられるテロ容疑者の拷問から思わず目を背けたりもするのだが、いずれ自分の仕事を完遂することだけがすべて、という人間に変貌していく。こちらが容易に共感できるような人物ではなくなってしまう。

驚くのは157分の長丁場の3分の2を過ぎたあたりで、そんな彼女さえ劇中で起こる物事の、ただの傍観者になってしまうことだ。人間性の彼岸へ渡った彼女に、そして観客に、すべてが終わったあとで残るものは何か。そういう旅路を超大作の枠組みのなかで冷徹にドライに、また妥協なく描き切るあたりに、ビグローの強さがある。