映画好き中井 圭へ7つの質問
Q1
あの監督の虜になった名シーンは?
中井 圭
中野量太監督の傑作『湯を沸かすほどの熱い愛』の、銭湯の焼き場で炎の中に人間の足がうっすら見えるラストシーンには、描くべきことをきちんと描いている映画の強度、そして中野さんの志の高さを感じました。
Q2
好きな監督のベスト作品は?
中井 圭
スティーヴン・スピルバーグの『ミュンヘン』、アルフォンソ・キュアロンの『トゥモロー・ワールド』、ミハイル・カラトーゾフの『鶴は翔んでゆく』、マイケル・マンの『コラテラル』、ウディ・アレンの『カイロの紫のバラ』、プラッチャヤー・ピンゲーオの『トム・ヤム・クン!』などです。
Q3
好きな監督のイマイチだった作品は?
中井 圭
好きな監督の映画は、いいところを見つけてしまいます。
Q4
最近になって魅力的に感じるようになった監督は?
中井 圭
もともとピンとこなかったというわけではないですが、最近理解が深まったのは、ジョン・カサヴェテス監督です。
Q5
あの監督に撮ってほしい、意外なテーマは?
中井 圭
濱口竜介監督にアメリカで映画を撮ってほしいですね。
Q6
個人的に今気になっている監督は?
中井 圭
福永壮志監督。前作『リベリアの白い血』に引き続き、新作『アイヌモシリ』も日本以上に海外での評価が高く、彼の映画を見つめる視座は、ほかの日本映画とはレイヤーが違うように感じます。
Q7
将来が楽しみな次世代の監督は?
中井 圭
ユン・ガウン監督。『わたしたち』での少女の繊細な心理描写が痛切かつ慈しみ深く、筆致のグラデーションの豊かさからは、今後のさらなる飛躍を感じさせます。
2010年以降の「この監督のこの一本」。
クリント・イーストウッドの『運び屋』
巨匠が追求したリアリティの先に、自身の贖罪があった。
2010年代のクリント・イーストウッド監督の作家性は、実話をもとに映画を撮る行為に執着し、映画と現実の境を極限まで曖昧にしていく。『J・エドガー』以降、『ジャージー・ボーイズ』『アメリカン・スナイパー』『ハドソン川の奇跡』と実話をリアルに描いてきた。そして、実際のテロ事件の当事者(一般人)を配役し、事件を再現して撮った『15時17分、パリ行き』は、彼のリアリズムの極北だ。
しかしその次作は、限界まで到達したリアリズムを別次元で更新する。それが『運び屋』だ。本作も麻薬輸送事件の実話を映画化したものだが、家庭を顧みずに生きてきた老人アールをイーストウッドが演じ、アールの娘役にイーストウッドの実の娘アリソンを起用。
老人が放置してきた家族に償いをする物語を、自由奔放に生きてきたイーストウッドが娘と演じた。イーストウッドはアリソンが3歳の時に彼女の母と離婚している。つまり、実話を使って現実世界と接続しつつ、自身の家族に贖罪のメッセージを映画で届けた本作は、従来のリアリティのその先に到達する作品だ。イーストウッドはいまだに進化し続ける。