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シネマコンシェルジュの映画監督論:有坂 塁「作品を通して想像する余白を与えてくれる監督に熱視線」

巨匠から新鋭まで、素晴らしい監督たちが次々と登場する今、観るべき監督を知るには、やっぱり信頼できる映画通の後ろ盾が欲しいもの。独自の審美眼で映画シーンを追いかけ続ける30人に頼ることに。

llustration: Thimoko Horiguchi / Text: Yoko Hasada, Aiko Iijima, Saki Miyahara, Konomi Sasaki / Edit&Text: Emi Fukushima

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映画好き有坂 塁へ7つの質問

Q1

あの監督の虜になった名シーンは?

有坂 塁

ウディ・アレン監督『マンハッタン』のオープニング。美しいNYの風景とともに流れるガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」。そこにブツブツ小説の書き出しを考えるウディ・アレンのナレーションが重なり、一気に映画の世界に引き込まれました。

Q2

好きな監督のベスト作品は?

有坂 塁

アキ・カウリスマキ監督『浮き雲』。緻密で前衛的でありながらどこか人情を感じる作品群の中でも、珍しくかすかなハッピーエンド。入口として薦めやすいです。

Q3

好きな監督のイマイチだった作品は?

有坂 塁

ありません。

Q4

最近になって魅力的に感じるようになった監督は?

有坂 塁

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督。破滅的な人生が投影された作品は厭な後味で敬遠していたのですが、2年前に特集上映で観直して、素直に面白いなと。自分も年を重ねたから?

Q5

あの監督に撮ってほしい、意外なテーマは?

有坂 塁

監督の得意技を封じたらどうなるのか観てみたい!ジョン・カーニーにサイレント映画を、是枝裕和に実験映画を。

Q6

個人的に今気になっている監督は?

有坂 塁

栃木・大田原市を拠点に映画製作をする渡辺兄弟。長回しやくだらない会話の応酬など、独自のスタイルを持ってインディーズ映画を量産していて、予算はかけずとも面白い映画が作れることを改めて感じさせられます。

Q7

将来が楽しみな次世代の監督は?

有坂 塁

ミカエル・アース監督。厳しい現実にかすかな光を見つけて前に進む人々を描く彼は、悲しみに溢れた今の時代がまさに求めている監督だと思います。

2010年以降の「この監督のこの一本」。
ビー・ガンの『凱里ブルース』

中国の新鋭監督のエネルギーが爆発した、初の長編作。

どの監督も、デビュー作には独特の粗削り感や初期衝動が詰まっているもの。なかでも中国の新鋭、ビー・ガン監督の初長編作『凱里ブルース』のエネルギーは圧倒的でした。出所したばかりの男がとある目的で旅をする物語ですが、注目すべきは後半約40分間の長回しシーン。

主人公の男と旅の途中で出会った青年がバイクに乗って田舎道をただ進むところをカメラで追っていて、なぜかその没入感がすさまじいんです。長回しゆえに、変なところで間が空く不自然さもあるのですが、ある意味での“へたさ”を超越するゴツゴツした衝動を感じました。

前情報を入れずに観た僕は、台湾の巨匠、ホウ・シャオシェン監督を思わせる牧歌的な世界観の前半に安心していたのですが、後半で一転、普通ならカットを割るであろうポイントを通過していくにつれ、「まさか最後までワンカットで?」と想定外の興奮を覚え始めました。その大胆不敵さは、かの有名なゴダールが初長編作『勝手にしやがれ』で世に与えた衝撃を思わせるほど。圧倒的な才能に出会ってしまった気がします。(談)

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