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料理人・高岡盛志郎と高岡博子、暮らしの中に仕事がある、アンプラグドな家

今日は一日家にいる。そんな日は、心がふさぐ一日ではなく、心が解放される一日でありたい。窓からの景色にホッとしたり、いつものダイニングテーブルで一息ついたり。そこに好きな本や音楽があれば最高。平凡で穏やかな日々を称えたい今だからこそ、家のことをもっともっと好きになって暮らしたい。

Photo: Keisuke Fukamizu / Text: Tami Okano

太陽と火に支えられる、豊かなオフグリッド生活。

じわじわと溜まったコップの水が、とうとう溢れ出すように、6年ほど前、高岡博子さんは「電化製品の音がしない環境で眠りたい」と、冷蔵庫のプラグを抜いた。

「カリフォルニアから帰国後、佐賀市内で始めたレストランは好評でありがたかったけど、忙しくて子供と過ごす時間も取れなかった。ぎゅうぎゅうに詰め込んだ生活を、一度空っぽにしたくなって」

冷蔵庫だけではなくエアコンなどの家電の使用を次々とやめ、物を減らし、車も手放した。そうするうちに「これからは、本当に必要なものだけで、家族との歴史を刻むような暮らしがしたい」と強く思ったのだという。

「そのためには、暮らしと仕事を一緒にしたい。自分たちができることは料理だから、家族にもお客さんにも、体が素直においしいと思えるご飯を作り、のびのびと過ごせる自宅兼宿を持ちたい」

2年かけて土地を探し、建物のベースは建築家が建てたものの、予算が尽きて、途中からはセルフビルド。床も壁も天井の仕上げも自前。それはもう「むちゃくちゃ大変の一言」と盛志郎さん。

完成した自宅兼〈TIMERの宿〉は、土地の傾斜に沿った登り窯のような形をしている。大切にしたのは、オフグリッドで自然エネルギーを気持ち良く取り入れること。敷地内の太陽光パネル3枚で合併浄化槽を動かし、暖房や調理などの熱源はすべて薪。火おこしの手間はかかるし、仕事は山のようにある。

でも盛志郎さんは言う。
「楽ですよ。ここに来て、だいぶ楽になりました。何が楽って、諦めるんです。雨が降ったら、薪の用意は諦める。その分、雨の前には仕事を終わらせよう、とか計画的に動くようになるから、隙間ができて休める。
もう今日はソーラーランタンも消えたけん諦めて寝よか、とか、そういうことができるようになった。無理な時は無理。諦めて、やれることをやる」

その潔さはこの家のすべてに共通していて、ここでの暮らしには、潔く諦めることでしか手に入らない、豊かで贅沢な時間がある。

佐賀県〈TIMERの宿〉ダイニング
高岡盛志郎さんと博子さんの住まいの延長線上にある、〈TIMERの宿〉ダイニング。斜めの三角屋根頂部は4m以上。部屋に電気は通っておらず、夜はソーラー&ガスランタンとキャンドルで過ごす。ここで食べるオーガニックな野菜料理は絶品。朝晩の空気も清々しくエコライフで誤解されがちな不便さや過酷さはみじんも感じない。