スタイリッシュではない、スタイルが生まれる場所でありたい。
「小さいけれど、形のいい波が立ってますよ。今日の波ならボードは7.0ftくらいがバッチリかな」。
到着するや否やガレージのボード置き場に通される。まずはサーフィン、から始まるのが、枡田琢治さんの家のルールだ。
映画『ビッグ・ウェンズデー』の舞台で、サーフィンのクラシックポイント、マリブ。
1990年、大学に通うため、訪れた枡田さん。自宅を構えるマリブコロニーは、学生時代の憧れの場所。パーティに忍び込み、この地の持つコミュニティのおおらかさに影響を受けたという。
2階吹き抜け。ルーバーとしての役割を兼ねるヴィンテージのサーフボード群。「ここはサーファーの家だよ、という目印でもある」（枡田さん）。外界とのコミュニケーションの空間にもなっている。 
r曲線は、波を模した。地面に描かれる線は、マリブに届く波の向き。オールドジョーズというレフトの波、コロニーライツというレギュラーの波。サーファーらしいモチーフだ。 
子供たちのプレイルーム、またミュージックルームとして使われる部屋。レコードキャビネットは、サンディエゴのWRENSILVA製。レッド・ホット・チリ・ペッパーズのアンソニー・キーディスとフリースクールのファンドレイジングをした際、手に入れた。 
この部屋のテーマは、イングリッシュダイニングルーム。訪れたゲストが、最初にくつろぐ場所としての機能がある。バンクシー、マーカス・ハーヴェイ、レイチェル・ハワードなどイギリスのアーティストを中心に、若いアーティストの作品もともに飾られる。
世界中から枡田さんにサーフィンを学ぶべく集まる、有名無名の人々。この家に入り、ひとたび裸足になれば、肩書を脱いで純粋に海を楽しむ友人同士へと変わる。家は、フラットな関係をつくるための機能である、と語る。
テーブルは、マーモ・ラジーナによるカスタム。写真は、モデル、アーティスト、ハワイのプロサーファーのダニー・フラーの作品。 
読書のためのコーナーにもアートが飾られる。マルセイユのスケートボードパークでメイクするカレン・ケープルスを撮影した作品。 
ベッドルームには、パイプラインでメイク中の枡田さんを空撮した作品が。海が作り出す壮大な力と強い緊張を感じさせる写真だ。 
防水加工されたリビング。バリー・マッギーの作品、その奥の部屋には、メタリカのカーク・ハメットからのギフト、ギターが。
「屋根にはPVSC（太陽光発電）パネルを設置、オフグリッドで暮らせるオーガニックな家にしたい。クラパット（・ヤントラサスト／建築家の安藤忠雄に師事した〈wHYアーキテクチャー〉クリエイティブディレクター）にお願いしました。
安藤さんの、何が起きても半永久的に残りそうな堅牢でソリッドな世界観。その中は、濡れたカラダで帰ってきて、裸足で歩いても滑ったり転んだりしない、安心してビーチカルチャーを楽しめる環境。この両方を見事に叶えてくれました」
マイク・ディフェンダーファー、フィル・エドワーズ、ハービー・フレッチャーらレジェンドが手がけたマスターピース。 
2005年、「妻の愛美さんとの結婚記念に」と、友人であるダミアン・ハーストがアートワークを施したサーフボード。
インテリアは、デザイナーズは少なく、アーティストの作品も、「プロジェクトを組んだ仲間や、サーフィンを通じて知己を得た友人に譲ってもらったもの」。
ミュージシャンや俳優、映画監督など、この家を通じて友人となった人々が、新たなプロジェクトを始めることもあるという。
キッチンで朝食を作る愛美さん、長男・雷治くん、長女の花美ちゃん。庭でとれた果実でジュースを作ってくれた。 
完成間近のランプをプレイルームから見る。雷治くんの成長とともにランプを大きくするため、元あった畑を潰しつくった。
「LAには、いつもTシャツ短パンで髭面っていう人がいっぱいいる。今を追いかける、スタイリッシュさはないかもしれないけれど、ものすごいバイブレーションを持ったスタイルのある人々。彼らが集い、ものすごい発電を起こす。それを響かせるような家でありたい、と思っています」
