上の写真の3人の若者が、〈長春〉という茶会を主催する無類のお茶好きたち。昨年の8月に茶会をスタートし、お茶の魅力を広めるべく、コツコツと活動を続けている。彼らの魅力は何と言っても3人のバランスの良さ。それぞれに役割があり、ワークショップを開く際にも適材適所でその才能を発揮している。
まず、営業や演出を主に担当するのが、写真中央の小野蓮音(れおん)さん。彼が〈長春〉の発起人でもあり、ハブとなりイベントの運営、商品開発などの面で活躍。小野さんは高校生のときに煎茶に出会い、その精神性に惚れ込み、小笠原流煎茶道にてその道を学び、煎茶道の資格まで取得するほど夢中になった。さらに、同志社大学入学後に煎茶道サークルを設立し、総勢100名を超える部員たちに煎茶道のお稽古を行い、お茶の魅力を伝える楽しさを知ったという。2021年には京都の神社仏閣で大規模な煎茶道の茶会を開催するなど、アイデアと行動力に満ちた人物なのだ。
写真右手の星野孝太さんは、「日本茶インストラクター」の資格を最年少で取得するなど、お茶を淹れる技術に長けた〈長春〉のソムリエ的な存在。彼も高校時代からお茶にハマり、地元北海道からお茶を求めて静岡大学に入学したという。農学部に所属しながらお茶サークルを立ち上げ、2021年にはそのセンスを発揮しオリジナルのブレンドティーを開発。ハーブ検定なども取得しており、味や香りに長けている。
最後に写真左手の山本悠馬さん。言うなれば、彼は〈長春〉のブレーンだろう。星野さんと同じく静岡大学農学部に所属し、お茶サークルを一緒に立ち上げ、フィールドワークなどの探索面を担当。お茶農家さんの元に通い詰め、珍しいお茶についての歴史や情報、さらには生産する上での知識まで収集する研究家でもある。サークルでの経験や人脈を生かし、〈長春〉のお茶の買い付けルートの確立やワークショップの企画・脚本を作成している。
京都と静岡のお茶好き3人が、ひょんなことから出会い発足した〈長春〉は、奇跡のバランスで回っている。各人が自分の得意な部分を活かして、お茶の魅力を伝えるべく思考を凝らしているのだ。
お茶の基本知識から、奥深い味わいまで学べるワークショップ
〈長春〉が開催するワークショップは、お茶に関する基本的な知識を学ぶところから始まり、「日本茶インストラクター」の星野さんが丁寧に淹れてくれる、おいしいお茶の飲み比べが楽しめる。脳と舌が満たされる特別な時間を体験できるというわけ。この日は東京・蔵前にある〈élab〉というキッチンラボでワークショップが開催されていた。
お茶に関する基本知識の中で特に興味深かったのが、お茶の色と発酵について。上の写真を見てもらえれば分かるように、お茶は発酵の長さによって淹れたときの色が変わり、名前も変わるというもの。不発酵のものを「緑茶」と呼んで、最大まで発行させたものを「紅茶」と呼ぶ。そしてその間は「青茶」と呼ばれるのだが、われわれが慣れ親しんでいる「烏龍茶」も「青茶」に分類されるのだ。
「この発酵の具合によってお茶の味は大きく変わるんです。どんなに上手に作られた茶葉でも、発酵が失敗したら美味しくなくなる。中間に位置する「青茶」はとても繊細で、烏龍茶はその中でも格段に作るのが難しいんです」と、国産の烏龍茶の研究を進める山本さんが教えてくれた。お茶の本場・中国においては、烏龍茶の生産には100の工程がある、と言われるほど作るのに時間と労力のかかるお茶なのだそう。
北斎が描いた茶園を受け継ぎ、新しいお茶文化を築く
〈長春〉の活動はワークショップだけに留まらない。驚くことに、かの葛飾北斎が代表作『富嶽三十六景』で描いた富士山の麓の茶園〈長春片倉〉を、彼らが受け継ぎ運営していくのだという。
山本さんと星野さんが在籍する静岡大学のお茶サークルの活動の一環で、〈長春片倉〉の管理を手伝っていたことがきっかけ。この茶園で作られるお茶は、現在市販されておらず、管理しているご夫婦が自分たちで楽しむため、そして北斎の描いた美しい茶園を守るために管理されていたのだ。
〈長春〉の3人の熱い想いに触れたご夫婦が、本年度からこの茶園の管理と運営を彼らに任せることとなり、約200年続く茶園を受け継ぐこととなった。テニスコート6面分ほどの茶園は非常に風通しがよく、お茶の栽培に最適な環境。さらに挿し木ではなく種から栽培されているため、非常に珍しい遺伝子を持つことが分かっているという。山本さんは「この歴史ある茶園で、新種のお茶を作りたい」と目を輝かせて語る。
お茶の未来を担うであろう、若き茶人たちの今後に注目
若くしてお茶という文化に魅せられた、生まれも性格も全く違う3人による、いま日本で一番フレッシュな茶会〈長春〉。彼らの活動はまだ始まったばかりだが、日本各地で行うワークショップに歴史ある茶園の運営と、将来がすでに楽しみな存在だ。
「お茶って日本人が昔から嗜んできて、とてもトラディショナルでかっこいい文化なんです。知れば知るほど楽しいお茶の世界も、もっと多くの人に味わってもらいたいと思っています」と小野さん。次のイベントは2023年2月22日〜28日、有楽町〈阪急メンズ東京〉1階にて、ポップアップイベントに参加予定。今後の彼らの動向に注目を。