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小説『二つの心臓の大きな川』で味わうキャンプ料理〈そば粉のパンケーキ〉

無人島で、深い森で、静かな川辺で。物語に描かれた憧れのキャンプ料理を、料理ユニット・オカズデザインが想像力というスパイスを加えて再現します。

Photo: Kasane Nogawa / Text: Saori Takagi / Edit: Yuriko Kobayashi / Cooking: Okaz Design / Styling: Mariko Nakazato

 いぶって煙をあげているフライパンに、こんどはこねあげたソバ粉を手際よく流し込んでゆく。それは溶岩のように広がって、脂が猛然と跳ねた。ソバ粉のケーキの縁が固まりはじめ、狐色に変色し、カリカリになった。ケーキの表面はゆっくりと泡立って、たくさんの気孔が残されてゆく。

 最初の一枚ができあがると、ニックはまたフライパンに脂を引いた。練り粉を全部使った。それで大きなパンケーキと小さなパンケーキを一枚ずつこしらえた。

 その大きなパンケーキと小さなパンケーキにリンゴ・ジャムをつけて、彼は食べた。それから三枚目のパンケーキにリンゴ・ジャムを塗り、二つ折りにして油紙で包んでからシャツのポケットにしまう。リンゴ・ジャムの壜はザックにもどし、サンドイッチ用にパンを四切れに切った。

 ザックの中には大きな玉ねぎが一個あった。それを二つに切って、薄い外皮をむしりとる。片方の半分を薄く幾切れにもスライスして、オニオン・サンドイッチをこしらえた。それも油紙で包み、カーキ色のシャツのもう一つの胸ポケットにおさめてボタンをかける。グリルの上にフライパンを伏せ、コンデンス・ミルクで甘く薄茶色になったコーヒーを飲んでから、キャンプを整頓した。いいキャンプだった。

ヘミングウェイ
『二つの心臓の大きな川』より

孤独を楽しむ「男のパンケーキ」

幸せの象徴「甘いパンケーキ」に、ヘミングウェイの世界観である「一人キャンプをする男の寂しさや厳しさ」をにじませたいと思いました。

材料には砂糖や蜂蜜等は使わず、そば粉を溶く水の代わりに黒ビールを入れてコクと甘味をプラス。そば粉と同量の黒ビールを加えた後、生地がもったりするようなら水を足し、好みの具合までのばしましょう。

リンゴのジャムは、素材感が残るリンゴのバターソテーに替えると、甘さが抑えられて腹持ち度もアップします。
スライスタマネギは、その時季の甘味のある柑橘を搾ると、爽やかな風味に。リンゴとタマネギを一緒に挟んで食べるとよりおいしいです。

ヘミングウェイ『二つの心臓の大きな川』より、再現して作られた〈そば粉のパンケーキ〉