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働く、作る、生活する。ビル1棟で実現した新しい職住一体スタイルとは

仕事場と住まいが一緒という職住一体のスタイルを送る人が増えている。が、それをビル1棟で実現している人はあまりいないだろう。店とアトリエと自宅、すべて一緒にしたいとビル1棟を購入した〈タルクライン〉オーナーで造形作家の谷口かおりさんとジュエリー作家の小西潤さんを訪ねた。

photo: Satoshi Nagare / text: Chizuru Atsuta

ビル購入とはなんともスケールの大きい話ではあるが、建物自体は昭和45(1970)年に建てられた廃墟同然の空きビル。中はボロボロ、雨漏りもひどく、すぐに住むことはできないため、約1年半かけリノベーションした。1階を店、2階をアトリエ、3階をリビングと寝室、バスルーム、4階をキッチン、ダイニングとして機能を分けた。

以前東京で内装関係の仕事をしていたという谷口さん。基本設計はすべて自分で担当。地元の大工や建具職人らとのやりとりでは、図面と材料サンプルを渡したり、アイデアをもらったりと密にコミュニケーションを取った。

「1階の店舗スペースは白とガラス張りだけのクリーンなイメージ。2階は機能的で使いやすさを重視。3、4階の住居は各スペースが独立しないよう、つながる空間作りを意識しました」

その住み心地はいかに。「やはり暑さ寒さは大変ですが、それも1年体験して慣れました」。冬の間は3階のリビングには大きなテントを張り、中にテレビと椅子とテーブルを。断熱材がないビルでは暖かい空気が充満しない。そこで床暖房の上にテントを張ろうと考えた。

谷口さんにとって、住みながら出てきた問題を考えるのは苦ではなく楽しい作業。現在、理想の形に近づいたかと問えば「まだまだ」。暑さ、寒さをしのぐ対策は完璧ではないし、作りたいものもたくさんある。実はランプ1つ決めるのに、小西さんが10案ほど出したがすべて却下したという。

「長く付き合っていくものは本当に気に入ったものじゃないと置きたくない。一度つけたらそれでいいとなってしまうから」

気に入るものが見つかるまではないまま過ごす。時間をかけてゆっくりと、妥協することなく空間を作っていくのが谷口流。

「最初から完璧を目指さない。まだまだやりたいことがあるので、余白を楽しみながらこの家と付き合っていきたいんです」

1年半かけてリノベーションしたビル
丸々1棟が谷口さんと小西さんの自宅であり仕事場。1970年に建てられたビルは、これまでに3度持ち主が変わった。2015年に購入、1年半かけてリノベーションした。