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Aマッソ加納と田丸雅智が語る、ショートショートと笑い

短編よりもさらに短くて、ちょっと不思議。アメリカで生まれ、国内では星新一を中心に1970年代に隆盛を極めたショートショートが、ここ数年再び盛り上がりを見せている。現代の書き手として流れを率いる作家の田丸雅智と、エッセイや小説連載など執筆面でも話題のお笑い芸人・Aマッソ加納が、読み手と書き手、両方の目線からその魅力について語らった。

Photo: Koichi Tanoue / Text: Emi Fukushima

ショートショートは「笑い」と似ている?

Aマッソ加納

芸人になってから感じたことなんですが、ショートショートってなんとなくお笑いの「ネタ」にも通じるなと思っているんです。

田丸雅智

ああ、わかります。

加納

コントの設定に近いというか。ワンシチュエーションで起承転結があるところも、尺の長さも、5〜10分のコント台本に近いのかなと。

田丸

僕もお笑いは大好きですが、根っこは芸人さんと近い気がしますね。ショートショートは物語が分岐する地点で起こった不思議な出来事を、どんどん肯定して、変な世界にエスカレートさせていく展開が多くて。

加納

それなら、特にピン芸人に近いのかもしれません。現実から変な方向へ離れていく過程に面白さがあるのがピンでの芸、ボケとツッコミの掛け合いで、現実に引き戻す過程を笑いに変えるのがコンビ芸だと考えると。

田丸

ああ、なるほど。

加納

いずれにせよ、なんとなく自分の領域とも近い気がして、親近感を持っています。私はもともと星新一さんや筒井康隆さんの作品を読んできたんですが、最近は新しい書き手も増えているそうですね。

田丸

はい。1970年代あたりに盛り上がって以降は、90年代にかけて下火になり、廃れる寸前までいってしまって。今から10年ほど前、僕がデビューした頃は、ショートショートは「売れないから」と出版社も敬遠するジャンルになっていました。

しかし僕は幸運なことに、2014年に『夢巻』という作品集を出すことができて。以来、風向きが一変しました。ここ最近では、新しい書き手の方が出てきたり、アンソロジー企画も続々と出てくるなど、改めて注目してもらえるようになってきました。

2019年からは、松山市主催の「坊っちゃん文学賞」がショートショート専門の賞にリニューアルされ、2020年度の第17回では応募総数が9318点となるなど、かつてないほどの盛り上がりを見せています。

加納

また評価が集まっているのには、何か理由があるんでしょうか?

田丸

SNSの影響も一つかなと。忙しい生活スタイルを送る人が多い中で、特にSNSで誰もが気軽に文章に触れられる今、読み手にも書き手にも手軽なこの形態は、相性がいいのかもしれません。

加納

読み手としては、ショートショートの魅力って、突き放されることにあると思っています。続きを読みたいというよりも、惹きつけられた世界の中で、もう少しそのエッセンスを浴びていたいんだけど、もうこれでおしまい、と急にシャッターを下ろされる感じ。

作品の世界にどっぷり浸れる長編と比べて、ショートショートはまだ物足りない分、何度も読み返したくなる。片思いして追いかけ続けたくなるような感覚。恋愛でいう、モテるやつのデートのやり口みたいですね(笑)。 

田丸

(笑)。嬉しいですね。現代ショートショートの定義は「アイデアがあって、それを生かした印象的な結末のある物語」なのですが、その中で自分も目指しているところが、もう一回読みたくなる作品。ショートショート全体としても、何度味わっても新しい発見がある豊かな作品であふれるようになっていけばいいですね。

加納

田丸さんはなぜショートショートを書き始めたんですか?

田丸

小学生の頃、読書が苦手だったんですよ。せっかちだから飛ばし飛ばし読んで、ちんぷんかんぷんのまま(笑)。そんな中で親が薦めてくれたのがショートショートでした。まずは読むことにハマり、高校生の時に暇を持て余して自分でも書いてみようと思ったのが今に繋がるきっかけです。

加納

へぇ〜 ご自身の性格にも合っていたんですね。

田丸

加納さんはエッセイと小説で、向き合い方に違いはありますか?

加納

エッセイは、みんなの気持ちを代弁することを前提に書いている気がします。私自身、別に特殊な人生を送ってきたわけではないので、「みんな、こういうことを思ってるんだろうな」と想像して書いて、何らかの感情を思い出してもらうきっかけになればと思っている。小説は目下勉強中ですが、読んでくれる人を見たことないところに連れていけたらいいですね。

田丸

エッセイと創作とでは、やっぱり違うんですね。

加納

田丸さんはショートショートを書くときになにか一貫して意識されていることはありますか?

田丸

基本的には日常を入口にストーリーを描くことでしょうか。どこかの惑星で宇宙人と遭遇するような話よりも、目の前にあるもの、例えばペットボトルがあったときに、ペットボトルのラベルを剥がしたら下からどんどん新しいラベルが出てきたとか。

もう一歩進んで、そのラベルは誰かの十二単で、ペットボトルは平安時代のものだった……などと、どんどん物語を転がしていく。奇抜といえば奇抜なんですけど、モチーフは当たり前のもの。「あり得ない、でも待てよ、本当にあるかもしれない」みたいな揺れを生み出せたらいいなと思っています。

加納

田丸さんの作品しかりですが、面白いショートショート作品に出会うたびに、この作家さんが芸人じゃなくてよかったなって思うんです。表現として通じる部分があるからこそ、戦ったらひとたまりもない(笑)。しかもどこまでいっても、自分をコマにして表現するしかない芸人と違って、余白を駆使したり、1行前の言葉も否定できたりする文章の柔軟さは羨ましくて。それが面白いから、やっぱり自分も読み続けてしまうんですよね。

本当にこんな世界があるかも?
設定に惹き込まれる
加納さんオススメの2作品。

「水泳チーム」著/ミランダ・ジュライ 訳/岸本佐知子
(『いちばんここに似合う人』に収録)

水泳チーム ミランダ・ジュライ 岸本佐知子

プールのない街でわたしが始めたのは、水泳チームのコーチだった。「アメリカには本当にこんな文化があるのかな、と錯覚してしまうさりげない可笑しさに惹かれる」(加納)。新潮クレスト・ブックス/¥2,090

「傾いた世界」著/筒井康隆
(『傾いた世界』に収録)

傾いた世界 筒井康隆


ある海上都市が、2度傾き始めてから倒壊に至るまでの街の狂騒を描く。「設定だけでも面白いのに、それに負けないぐらい登場人物のキャラが濃い。名前の愉快さだけでも楽しめる」(加納)。新潮文庫/¥605

過程の豊かさと印象的な結末。
田丸さんが選んだのは
新時代を感じる3作品。

「羽釜」著/高野ユタ

ひょんなことから蚤の市である羽釜を手にした主人公。ご飯を炊こうとすると。「アイデアの面白さはもちろん、プロセスが豊かで何度も読み返したくなる」(田丸)。

「ドリームダイバー」著/山猫軒従業員・黒猫
(いずれも『夢三十夜あなたの想像力が紡ぐ物語』に収録)

ドリームダイバー 山猫軒従業員・黒猫

依頼主の夢に潜り、かつての憧れや夢を回収する仕事を通じて、生きる意味を問う物語。「軽さと重厚さのバランスが絶妙なのも新時代らしさ」(田丸)。学研プラス/¥1,100

「実況オウム」著/小狐裕介
(『3分で"心が温まる"ショートストーリー』に収録)

実況オウム 小狐裕介

家事の一挙一動を実況してくれるオウムを飼い始めたある家族。ささやかな毎日が少しずつ変化する。「児童書のシーンでも盛り上がりを見せている現代ショートショート。大人もグッときます」(田丸)。辰巳出版/¥1,210