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「そのほか」にこそ名作が潜む。コミック誌では読めないマンガを追う〜前編〜

書店のマンガコーナーには掲載誌順に途方もない数の作品たちが並んでいる。その隅っこの方に「そのほか」と書かれた棚を見つけて面白いマンガが眠っていることに気がついた。

Text: Ryota Mukai


週刊誌、文芸誌、専門誌……
面白いマンガがいっぱいだ。

店のマンガコーナーには掲載誌順に途方もない数の作品たちが並んでいる。その隅っこの方に「そのほか」と書かれた棚を見つけて面白いマンガが眠っていることに気がついた。しかし、これらはどこに連載していたのか?

探ると、いわゆるコミック誌ではなく、週刊誌や文芸誌、専門誌など多種多様。これを追えば、今一番面白いマンガを知れるはず。そこで、マンガに詳しいライターの加山竜司さんと山脇麻生さんに、今旬の連載マンガを(コミック誌抜きで)語り合ってもらった。

加山竜司と山脇麻生さん
加山竜司(右)山脇麻生(左)

ニューカマーたち。

加山竜司

「週刊少年ジャンプ」のようなコミック誌、以外の雑誌から、今一番面白い連載マンガを教えてほしい!とのことです。

山脇麻生

なかなかニッチなテーマですね(笑)。でも、面白いマンガだらけですよ。“コミック誌”との違いが一目でわかる作品として、まずは「WIRED」の連載を挙げたいです。

アニメーション作家でイラストレーターでもある北村みなみさんならではの、ポップな蛍光色使いは海外のコミックのようで。

WIREDの『来るべき世界』
『来るべき世界』ほか/北村みなみ
2018年から続く連載。絵画のような静的な絵が特徴的。内容は、AI、食糧危機、安楽死など掲載号の特集テーマに沿っている。バラエティ豊かなこの連載が『グッバイ・ハロー・ワールド』というタイトルで一冊になり、2021年6月に発売。コンデナスト・ジャパン。

加山

各話の内容は掲載号の特集テーマに沿っているから、コミック単体としてはもちろん、雑誌の一部としても楽しめる。

山脇

実は、北村さんはこれがマンガ家デビュー作でもあります。賞レースや投稿といったコミック誌的なステップを踏んでいないからこそ、表現や内容がチャレンジング。

加山

マンガ作家とのコネクションが少ない、一般誌ならではの発想ですね。「週刊文春」の『ペルシャの幻術師』も。作画の蔵西さんはこれがまだ3作目なんです。

週刊文春の『ペルシャの幻術師』
『ペルシャの幻術師』/原作:司馬遼太郎 作画:蔵西
2021年4月からスタートした連載。作画の蔵西は、この3月にマンガ『月と金のシャングリラ』が文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員会推薦作品に選出されたばかり。原作は司馬遼太郎の全集にさえ収まっていなかった幻の作品で、約40ページほどの短編。文藝春秋。

山脇

原作は、かの司馬遼太郎のデビュー作で、13世紀のペルシャが舞台の戦記もの。

加山

過去には手塚治虫の『アドルフに告ぐ』をはじめ、硬派なストーリーマンガが多かったけれど、こちらは一転して、ビジュアルで見せる作り。見開きの2ページで「キラッ」としか文字が書いてないなんて驚きですよ。

山脇

文春といえば、「週刊文春WOMAN」で昨年12月に始まったはるな檸檬さんの『ファッション!!』も面白い。ファッション業界に現れた新星と周囲の人々の物語。新星のジャン君の動きが不穏で続きが気になるし、コマ割りもシンプルで男女ともに楽しめる。

突き抜けた、ピーキー作。

加山

一般誌は“誰もが楽しめる”ものを作ってくれますよね。その例として「週刊女性」の『孤独なあなたの愛し方 `美智子さまが教えてくれた幸せの法則〜』を挙げたい。
これって、ほとんどNHKの朝の連続テレビ小説なんですよ。

山脇

婚約前後の美智子様のファッションを追う、雑誌編集者の物語ですね。

加山

ある女性の目線から社会を見つめるというスタイルは、まさに朝ドラのお家芸であり“誰もが楽しめる”。

山脇

「皇室」と「朝ドラ」か!それは万人受けしますね。

加山

一転して、独自路線を行く作品を。「ダイヤモンド・ザイ」で連載中の『恋する株式相場!』が面白いんです。時の株式相場をリアルタイムで解説してくれるのですが、描いているのはなんと、ホイチョイ・プロダクションズ。

ZAIの『恋する株式相場!』
『恋する株式相場!』/ホイチョイ・プロダクションズ
投資マンガ『女子高生株塾』シリーズに続いて2016年から始まった連載。流行を生み出してきたホイチョイ・プロダクションズがお金のトレンドを追う。全ページカラーで、税金、仮想通貨、行動経済学など投資の基本を幅広く学べる。単行本も発売中。ダイヤモンド社。

山脇

映画『私をスキーに連れてって』の原作も手がけたチームですね。

加山

まさにトレンドの中心人物たちが、経済の動向を描くとは!と驚きましたね。

山脇

マネー誌と、この作家の組み合わせだからこそ生まれたマンガですね。

加山

情報誌「GetNavi」の『メゾン・ド・フジコさん』もかなり斬新。シェアハウスの日常を描いていたストーリーマンガなのですが、実は商品紹介のためのページでもあるんです。

山脇

これまでタイアップといえばルポマンガが主流でしたもんね。

加山

アイテムの紹介はこの雑誌ならではの丁寧さがありつつ、マンガの物語もきちんと楽しめる。