専門誌マンガのグルーヴ感。
山脇
一般誌のマンガは掲載誌のカラーが色濃く反映されますよね。専門誌になるとよりニッチに、趣味色全開になる。例えば、「ミスターバイクBG」の『雨はこれから』。
加山
バイク専門誌の、バイクマンガですね。東本昌平さんの絵は相変わらずかっこいい。
山脇
内容も最高で。バイク好きの主人公が脱サラして、廃墟になったダイナーで暮らし始めるんです。バイク、コーヒーと若い女の人が登場(笑)。
加山
バイク好きおじさんの憧れがぎゅっと詰まってる。
山脇
私もバイクに乗るから、世捨て人っぽい感覚がわかるんです。ちょっと羨ましいくらい(笑)。
加山
読者と世界観が共有できているんですね。
山脇
だから例えば、マシントラブルが起きても、それに関する説明書きは一切ないんです。見ればわかるから。
加山
それはすごい!(笑)専門誌ならではですね。
山脇
説明書きがない分、コマの連なりにグルーヴ感が生まれて、マンガ的にもすごく気持ちがいいんです。
加山
題材をゴルフにしたら、「週刊ゴルフダイジェスト」の古沢優さん作画の『オーイ! とんぼ』になる。ゴルフ雑誌でわざわざ「パー4」などのルールの説明はしませんから。
山脇
確かに、コミック誌なら解説が必要なところですよね。
加山
それに原作のかわさき健さんが作るストーリーも斬新で。男性読者が多いゴルフ雑誌にもかかわらず、主人公は女の子のプロゴルファーなんです。
感情移入が難しいじゃないですか。でも、彼女を支えるキャディーが引退したおじさんゴルファーなんですよ。2人の疑似親子的関係が宮里親子を連想させて、ゴルフ好きにはたまらない。
山脇
「それわかる……」と盛り上がれる、まるで深夜ラジオみたいなマンガたちですね。
加山
この2つは長年続いている作品で、読者との関係も築けているからこそ、グッと響くものが描けるんでしょうね。詳しくない人にもぜひページをめくってみて世界観を味わってみてほしいです。
山脇
どうしてもカルト的な人気を集めることになってしまいがちですもんね。そういう意味では、ぜひ、バレエ雑誌「SWAN MAGAZINE」の『まいあ』も!
加山
う〜ん、わからないなあ……。
山脇
有吉京子先生のバレエマンガ『SWAN−白鳥』の続編です。
加山
ここで描いているんですね。それも大ボリューム。
では、僕からも「歴史群像」の『戦場伝説/翼をもつ魔女』を。ソ連で活躍した女性パイロットの実話を基にした物語です。ロシア戦記ものって実はたくさんあって面白いのに、多くの人に知られていないのがもったいない。
名作マンガが載る雑誌。
山脇
数ある一般誌連載のマンガのなかでも、今、読むべきはなんといっても「週刊SPA!」の『AV女優ちゃん』。
峰なゆかさんの自伝的マンガです。田舎のオタク少女がいかにAV出演したかや、2000年代のAV業界の裏側が赤裸々に描かれていて。とはいえ重くはなく、カラッとしてる。
フェミニズムが改めて注目されるこの時代に、女が生きる不自由さも描かれています。
加山
これを含めて、今の「週刊SPA!」には面白い作品が多いですよね。渋谷直角さんの『世界の夜は僕のもの』に、Ghetto Hollywoodさんの『少年イン・ザ・フッド』も。どちらも1990年代を描いているのも特徴ですね。
山脇
雑誌自体は、80年代末の中尊寺ゆつこさんの『スイートスポット』や90年代末の松田洋子さんの『秘密の花園結社 リスペクター』をはじめ、ずっと面白いマンガが載っています。
週刊誌ではあるけれど、サブカルチャーとの親和性が高いんです。
加山
カルチャー誌の「クイック・ジャパン」にも『お人形の家 寿』が、冒頭にドーンと載ってますね。
山脇
人形が話す、さながら“いがらしみきお版トイ・ストーリー”と言いたくなるようなギャグマンガですよね(笑)。
カルチャー誌では、作者がのびのびと好きなことを描いている雰囲気があって、読んでいて気持ちがいい。
加山
宮崎夏次系さんの「S-Fマガジン」の連載も“架空の小説のマンガ化”という、ある意味なんでもありなテーマで、奔放に描いてますよね。
山脇
宮崎さんのように、文芸誌には特にユニークな作品が多い。山本さほさんが「小説新潮」で連載中の『てつおとよしえ』もその一つ。
数年前に大ヒットした矢部太郎さんの『大家さんと僕』もこの雑誌での連載でした。
加山
どちらもエッセイだけど、単なる身辺雑記にとどまらず、一歩深入りした私小説的な作品になっていますよね。本好きの読者がついている「小説新潮」ならではの連載。
山脇
一方で「新潮」には『プリニウス』が。100年以上の歴史があるこの雑誌で初めてのマンガ連載です。
加山
今では多くの人が生まれたときにはコミック誌があった。マンガを読むリテラシーが日本人全体で十分に上がっている証しでしょうね。
山脇
そんなマンガ読みの全日本人注目の作品が、中原たか穂さんが「ダ・ヴィンチ」に連載中の『ジェリコー』です。
絵画『メデューズ号の筏』を描いた画家テオドール・ジェリコーの物語。約200年前の話ですがテーマが現代的で、創作の倫理を問う刺激的なマンガです。
加山
一見、地味な主人公ですが、ジュリアン・バーンズの傑作小説『10½章で書かれた世界の歴史』でも言及されている人物でもあり、本好きにはピンとくる絶妙な題材でもあります。
山脇
「ダ・ヴィンチ」は山岸凉子さんの『舞姫 テレプシコーラ』を筆頭に、常に読み応えのある作品が載っているイメージがあります。今絶対に読み逃せない雑誌の一つです!
加山
気をつけないといけませんね。『ファイブスター物語』が連載再開したときに「ニュータイプ」が完売するという事件もありましたから(笑)。
山脇
好きなマンガが人気になって嬉しいやら悲しいやらですね(笑)。