Drink

信頼できるボトルショップ。世界の最新潮流が壁一面を埋め尽くす、都立大学〈The Slop Shop〉

今、クラフトビールを扱うボトルショップが、存在感を増している。ヨーロッパ、北米、日本各地から選りすぐり。流行りや稀少性によらず、ブルワリーの歴史や背景、得意なスタイルなど、一本に込められたストーリーを語り、薦めてくれる、醸造家たちの代弁者。彼らがビールに注ぐ情熱の、源泉に迫る。

初出:BRUTUS No.944「ビールについて語らせろ!」(2021年8月1日発売)

photo: Keisuke Fukamizu / text: Kei Sasaki

語る人:代表・村越剛人

The Slop Shop(都立大学)

世界の最新潮流から日本独自の文化を導き出す

ニューヨークやロサンゼルス、トロント近郊のブルワリーのものを中心に、ベルギーの伝統的なセゾン、日本の注目ブルワリーのアイテムなどが、壁一面の棚を埋め尽くす。都立大学〈ザ・スロップ・ショップ〉は、代表の村越剛人さんが「日本ならではのクラフトビールカルチャーを創りたい」と、2019年にオープンしたボトルショップだ。

店の歴史は浅いが、日本のクラフトビールの黎明期から、日本と世界のシーンを見続けてきた人。子供の頃から勉強はそつなくこなす一方で、やりたい仕事が見つからなかった村越さんが、初めて仕事にしたいと思ったのがクラフトビールだった。

都立大学〈The Slop Shop〉店内
村越さん自らも店に立つ。

「味のインパクト、デザイン性の高いパッケージと、それが示す造り手の思想や文化のバックグラウンド。こんなに面白いものがあったのかと」

クラフトビールは、アメリカ発の文化。ならばアメリカのものにじかに触れたい。そんな渇望から、アメリカンクラフトビールのインポーターで働き始める。当時、“聖地”といわれていたサンディエゴを中心に旬のブルワリーを紹介していた業界のパイオニア的企業で、6年勤めた。その間にブームの波が来る。

続々とオープンするビアバーがタップの数を競い合い、都市に、ローカルに、ブルワリーが生まれた。一見、飽和状態に思えるが「モノがあっても、背景や文脈が理解されなければ、十分とはいえない」と村越さん。

日本にまだ紹介されていない、世界の最新潮流を伝えることで、カルチャーとしてのクラフトビールを根づかせたい。ショップのオープンにあたり会社を設立。オープン半年後、自社での輸入も開始した。

「ブルワリーにも世代のカラーがある。2010年代は地方都市が中心で、今は巨大都市近郊のブルワリーがシーンを牽引しています。ブルックリンでは、ヒップホップレーベルを運営していた人物が、ビールと一緒にクラフトスピリッツを造っている。トロント近郊のある醸造所では、近隣のワイン産地のブドウを使って、ワインとクロスオーバーするスタイルを生み出している。一方で、農業や自然からのアプローチに回帰する造り手は国内外で増えている。彼らを刺激しているのが、ヨーロッパの伝統的なビールなのです」

北米の最先端からヨーロッパの伝統派、日本の気鋭ブルワリーまでが揃うセレクトは「マーケティングよりコンテクスト重視」の結果だ。

村越さんはジャパンメイドのクラフトビールのあるべき姿についても考え続けている。同時代の醸造家や消費者と共に答えを探っていく。ボトルショップは、その第一歩なのだ。