見て、手に取って、触りたい本を置く
こんな印刷・加工をやってみたい。グラフィック社から刊行されている雑誌『デザインのひきだし』を手に取ると、頭の中でムクムクと夢が広がる。多彩な紙、めくるめく印刷加工、製本の最新情報が、実物の見本とともにわかりやすく提示される豪華な誌面は、印刷デザインの専門誌にもかかわらず、紙の本が売れない時代にあって毎号完売御礼という盛況っぷりだ。
創刊よりこの雑誌の編集を手がけ、出版界で誰よりも印刷に詳しいと評される編集長の津田淳子さんは、「私が常に興味のあることを徹底的に調べて載せているだけなので、『デザインのひきだし』は“同人誌”も同然」だと言う。
そんな津田さんのデスク周りはきちんと整頓されていた。デスクの奥は過去に制作したバックナンバーがずらりと並び、各号で制作した付録である各社の紙見本や、紙厚比較早見表は、自身でも単行本を制作する際によく使うので、いつでも取り出しやすい位置に置いてある。デスクの背後にある2段がメインで活躍している本棚だという。ざっと見たところで100冊程度だろうか。意外にも少ない。
「蔵書のほとんどは自宅に置いてあるので、会社には企画を考える時に使う本や造本、印刷の参考になりそうな本を置いています」
変わった印刷加工をしている本は、内容に興味がなくても買う。紙の風合いや加工の面白さ、製本の妙などは実物を手にしなければわからないからだ。書籍の企画を立てる際に一番よく見るのが、『印刷美術大観』である。
「テレビもインターネットもない当時、印刷って情報伝達をするうえで最新のテクノロジーだったんですよね。天皇の一筆が記されていたり、肖像が掲載されたりすることからも、重要産業であったことがわかります。目次には“オフセット十一度”“活版細工四度”等と書かれているんですが、ルーペで覗きながら、どう刷っていたのかと想像したり、今ならどういう印刷で再現できるかを考える。幸せな時間です」
紙の本を愛するデザイナーたちが絶大な信頼を置く雑誌の背後には、ルーペ片手に印刷物の仕組みを徹底的に調べる彼女の姿があるのだ。