増え続ける蔵書を受け入れてくれる棚
「幼い頃から当たり前のようにアメリカ文化に触れていて、ハリウッド映画的なポジティブイメージを持っていましたが、文学に触れてみると全然違う。すごく暗くて、社会に対して批判的な作品が多い。それが自分の内向的な性格に合っていたのと、イメージとのギャップからアメリカという国に興味を持ったのが研究を始めたきっかけです」と言うのは、アメリカ文学研究者であり翻訳家の藤井 光さんだ。
藤井さんは配偶者と子の3人暮らし。12年前に建てた家は「仕事で使う本のサイズを建築家の方に見せて、その後30年くらいは本が増え続けるという前提で、大量の本を収納できるよう設計をお願いした」という。
自身の本も決して少なくはないが、日本とアジアの古代史を研究する妻の蔵書は軽く3倍以上はあるだろうか。吹き抜けの壁面はすべて同じピッチで本を収納できるよう設計されている。現在も、それぞれで月に10〜15冊のペースで蔵書は増え続け、新たな研究のトピックについて勉強を始める時にはさらにどっと大量の本が家に届く。
上段にある本は、現在はかろうじてはしごに上って取り出すことができるが、今後は何らかの機械的な仕組みが必要だと家族で真剣に話し合っている。
デスク周辺には、進行中の企画や書評対象、これから訳すであろう本が置かれ、背後には授業で使用する本や文学研究書、哲学書を置き、座ったままでも取り出せるようにしている。
学生時代は物語の登場人物にしか目が行かなかったが、仕事を通して視界は広がった。
「例えば『紙の民』は、作者であるサルバドール・プラセンシアがメキシコからの移民で英語は第2言語。物語は母国を題材にしながら幻想的で虚実入り混じる中に、支配と搾取が描かれます。そこには、移民の作者自身が支配言語で物語を書くことが含まれています。そうした作家(語り手)の文化的背景と物語の関係について考える契機となりました。さらにこの本は、文字組みや書体、造本も工夫されていて、紙の本の奥深さを痛感しました」
現在翻訳中の物語も本が様々な時代に多様な形で関わってくる。出版が待ち遠しい。