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劇作家・別役実が読み、添削した「ジョーク集」!? 娘による亡き父の回想

世界各国・各民族の冗談や小咄を集めたジョーク集。これだけ一気に勢揃いすると圧巻だ。コレクションしていたのは、2020年3月に他界した劇作家・別役実さん。しかもその多くに彼の赤字添削が入っているというから面白い。

Photo: Kaori Oouchi / Edit: Izumi Karashima

喜劇は、その時代の優れた記録でもある

「本はほとんどいらないけれど、ジョーク本と推理小説は残しておいてほしい、と父は言ったんです」そう語るのは一人娘のべつやくれいさん。

亡くなる前年、家の建て替えに伴い別役さんの蔵書を整理しなければならなくなり、施設で療養中だった別役さんは、れいさんにそう伝えたという。別役さんは日本の演劇界に「不条理演劇」の舞台を創造した人物。晩年、パーキンソン病を患い闘病していたが、家が新しくなったら自宅でリハビリに励む予定だった。

劇作家・別役実
別役実(劇作家)
べつやく・みのる/1937年満州国生まれ。68年、『マッチ売りの少女』『赤い鳥の居る風景』で第13回岸田國士戯曲賞受賞。戯曲のほかに『さばくの町のXたんてい』など子供向けの童話も多数執筆。2020年3月3日、82歳没。

「もう一度読み返したかったんだと思うんです。もちろん、(サミュエル・)ベケットや(ウジェーヌ・)イヨネスコの戯曲や、演劇に関する本はたくさんあって。でも、そういったものは全部処分していいと。
それより、趣味で読んでいた推理小説やスパイ小説、ジョーク本の類いは残したいと。中でもジョーク本は、再版されることもない本。手元に置いておきたかったと思うんです。勝手に赤字を入れたりもしてますから(笑)」

別役さんは、喜劇こそが現代を写し取るために最も有効な手法であり、演劇の正道は悲劇ではなく喜劇にあると、折に触れて語っていた。中でも「ナンセンス喜劇」こそが不条理演劇の究極の形だと。

すると、これらのジョーク本が別役さんの戯曲に影響を与えたこともあったりするのだろうか?
れいさんによれば、別役さんは新しいジョーク本が出るたびに購入、赤ペンを持ちながら居間やベッドでゴロンと横になって読み、気に入った箇所にチェックを入れ、添削したりしていたという。そして、「これでこの本はより面白くなった」と満足、本棚に収めていた。

「私も実家暮らしをしていた頃は、それを時々引っ張り出しては読んでみたこともあるんです。
でも、そもそもジョーク自体、社会批判的なものが多いですし、大爆笑というものでもない。読んでるうちにお腹いっぱいになってくるんです。だから、父の赤字でそれがより面白くなってるかどうかもよくわからなくて(笑)。

私は父の本をちゃんと読んでいないので、それらがどう反映されているかはわからないんです。父の演劇でそういう言葉が出てきたこともないですし。ただ、皮肉の使い方などは参考にしたのかもしれませんね」

ところで、普段の別役さんはどんな人だったかといえば、「いつもうわの空でした」とれいさん。
「あと、お笑い番組を観るのが好きで。最近だとサンドウィッチマンがお気に入り。コントがよくできてるなあって感心してました」

しかし、別役さんがいなくなってから世の中は激変。いまも元気だったなら、彼はどんな赤字を入れただろう。コロナにトランプに、加えたい言葉はいろいろあるはずだ。「現実がジョークを超えてますもんね」とれいさんは笑った。

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