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〈ワタリウム美術館〉役員・和多利月子の人生最高のお買いもの「土耳古畫觀」

人が欲しいと思うものには、その人の価値観や人生観が表れます。何を思い切って手に入れ、何を大切にしてきたか。“お買いもの”とは究極の消費行動であると同時に、自分の人生を彩るために何が必要なのかを教えてくれるものです。〈ワタリウム美術館〉役員・和多利月子さんのベストバイ・ストーリーは?

photo: Satoshi Nagare / text: Ai Sakamoto

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ライフワークである祖父・山田寅次郎研究のきっかけであり、バイブル

1890年、和歌山県沖で起きたトルコ軍艦エルトゥールル号の遭難事件。その被害者や遺族のために義捐金を集め、自らトルコまで持参したのが私の祖父・山田寅次郎でした。『土耳古畫觀』は、寅次郎がかの国で見聞きしたモノやコトをスケッチと文章でまとめた見聞録。子供の頃、父が祖父の思い出話とともによく見せてくれ、本を開いてはトルコや祖父に思いを馳せたものでした。ただ、それは実家での話。せっかくなら自分だけの一冊をいつでも眺められるよう手元に置いておきたい。長年探した結果、ある古本屋で入手することができたのです。

当時のトルコは、さまざまな人種や文化が入り交じる多民族国家オスマン帝国。日本と全く異なる環境は、寅次郎の好奇心を大いに刺激しました。そんな彼が抱いた興味や疑問、驚きが詰まったのがこの本。手に取るたび、オスマンの風と祖父を感じられます。トルコの魅力や祖父が尽力した日土の友好関係を次代に伝えたいという思いから寅次郎の研究もスタート。パワフルだった祖父の影響で、ネガティブ思考がポジティブになるなど私自身も変わることができました。今は、私にとってなくてはならないこの本を独り占めできる幸せを感じています。

〈ワタリウム美術館〉役員・和多利月子の人生最高のお買いもの「土耳古畫觀」
1911年刊行の初版本。和多利さんのこの愛蔵書を基に、歴史的仮名遣いの原文に現代語の翻訳をつけた復刻版(9,020円)もワタリウム美術館から発行。

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