世界一の湧出量を誇る泉質多彩な温泉の聖地
小さな酒場が徒歩圏内に密集する、サンセバスチャン級のホッピング天国
昭和の花形温泉地、という印象だった別府が、いつの間にかサンセバスチャンになっていた。スペイン・バスクの美食の地。山と海の食材に恵まれ、古い市街地には新旧のバルが混在するホッピング天国だ。
日本各地で“目指せサンセバスチャン”を掲げる街は多いが、別府はたぶん「なんやそれ」なのに自然とそうなってる感じが素敵なのだ。
鶴見岳連峰と、瀬戸内海につながる別府湾に挟まれた半月形の港町。第二次世界大戦の戦火から免れ、戦前の建築が点々と残された街では今、歴史を重ねた店と新しい店が睦まじく隣り合っている。
新旧も国籍もそれぞれ。多様が別府のスタンダード
「別府の夜の1丁目1番地」と名高い北浜は、昭和のスナック密集地帯。その一角へ、4年前に現れた〈タンネル〉はリスニングバーである。スナックが会話で人と人とを結ぶように、この店は音楽でそれをする。
北浜通りと、そこから折れた銀座裏通りには、3つの年号をまたぐ老舗が健在だ。創業68年、名物女将や店を愛する常連客から、3代目が託された居酒屋〈チョロ松〉。創業71年、87歳現役マスターがシェイカーを振る〈峰シティパブリック〉。創業76年、亡き父の跡を継ぎ、姉妹で営む楚々とした餃子専門店〈湖月〉。
餃子では満州をルーツに持つ〈湖月〉のほか、〈小厨房 香凜(かりん)〉も推したい。店主・郝玲(ハオリン)さんの出身地、中国東北地方の具だくさんな餃子だ。
別府には、戦後、満州から引き揚げた者が多く暮らした。彼らはかつて存在した中央市場の周辺で、食べ物屋や飲み屋を開業。別府温泉の人気とともに、大いに賑わったという。