アメリカに端を発するムーブメントとは別に、ナチュラルワインのシーンが生んだクラフトビールに注目したい。ブルワリーの拠点はワイン産地。ヴィニュロン（ブドウ栽培農家兼ワイン醸造家）やソムリエたちに支持され、ワインコミュニティの仲間入り。
現地の事情に詳しい日本のナチュラルワインのインポーターが、続々と国内に紹介し始めているのだ。だからビアバーやビール専門店より、レストランやワインバーで出会えることが多い。
「ワインのように、レストランで楽しまれるビールを造りたい」と、料理人やソムリエから醸造家に転身する生産者も出てきている。ローカルに根ざし、安全で質の高い原料をセレクト。野生酵母での発酵、ノンフィルターでの瓶詰めや瓶内二次発酵、樽熟成……。
ヨーロッパの伝統的なビールを手本にした醸造方法は、なるほどナチュラルワインとの親和性が高い。ワイナリーから樽や澱を譲り受けたり、ワイン生産者自らがビールの醸造を始めたり。この動き、まだまだ面白くなりそうだ。
ラ・ブラッスリー・デ・ヴォワロン（フランス／サヴォワ）
ワイン生産者とのコラボレーションに注目
ジュネーヴでレストランを、エビアンの採水地に近いヴォワロン山の中腹でビール醸造所を営む。代表のクリストフは、ヨーロッパ各都市の星付きレストランのソムリエや料理人として活躍した腕利きだ。
糖分の添加は必要最少限、時間をかけて発酵させたビールは、サヴォワのナチュラルワインの生産者の樽で、ワインの澱とともに熟成。美しい酸味と柑橘系の余韻が印象的な、サヴォワの谷を巡る風のような爽やかな味わい。
サイクリック・ビア・ファーム（スペイン／カタルーニャ）
“酸味”を追求するスペインの都市型醸造所
ワインとビールのクロスカルチャーを象徴するような造り手。バルセロナ近郊の都市型ブルワリーで、サワーエールやランビックなど発酵由来のアロマと酸味があるビールを醸造。
2019年からは、“買いブドウ”で、ワインの醸造も開始した。ベルギー産の有機大麦100%、発酵中のビールに、熟成期間や糖度が異なる3種のセゾンをブレンドして瓶詰めする「セゾン」は、酸味の中に香ばしさやコクも感じられる。
トゥー ミーター トール（オーストラリア／タスマニア）
地産の原料と“野生発酵”でテロワールを表現
オーストラリア最南端のワイン産地、タスマニアのマイクロブルワリー。原料はすべてタスマニア島産。穀物やホップに至るまで地産素材で賄うブルワリーは、世界でも稀だ。
造り手自らが“野生発酵”と呼ぶ造りは、アルコール発酵後、容器の蓋を開放し、麦汁が蔵や周辺にいるさまざまな微生物を取り込める環境を作るというもの。結果、独特の酸味や複雑味が醸成される。瓶詰め時に未発酵麦汁を加えて瓶内二次発酵。
ブラッセリー・ド・ラ・ピジョンネール（フランス／ロワール）
ワイン生産者が絶賛する「麦のペティアン」
ベルギービールの輸入業を通じ、ナチュラルワインの世界に触れた兄弟が2003年に設立した醸造所。原料はすべてビオロジックで、酵母は自家培養。濾過や低温殺菌をせずに仕上げるビールは、ナチュラルワイン愛好家や生産者からも「麦のペティアン（微発泡）」と絶賛されている。フラッグシップの「ロワレット」は、モルト100％麦汁にアルザス産、イギリス産のホップをバランスよく効かせた軽快で爽やかな飲み心地。
アラリック（フランス／ラングドック）
100％オーガニック、軟水仕込みの繊細な味
「原料は世界中から取り寄せられるが、水は地に根ざす」が身上。元ソムリエとワイン卸が2016年に立ち上げた〈アラリック〉は、フランスでは特異な軟水を生かし、有機原料の持ち味を生かしたビール造りを行っている。
「トリプル・グラン・ビオ」は、大麦、小麦、ライ麦と3種の麦を使用、トラピストビールを手本に醸されたアルコール度数8.5%のストロングエール。厚みやコクもあり、ビール好きも満足する味わい。
ザーゴ・ビッラ（イタリア／フリウリ＝ヴェネチア・ジューリア）
イタリアのクラフトビールの先駆け的生産者
北イタリアで代々続くビール輸入商が、1996年からビール醸造を開始。原料はイタリア産、フィレンツェの修道院に中世から伝わるレシピを基に、ベルギーとドイツの歴史ある醸造所で醸すハイブリッドなビールだ。ビールの味を左右するホップを自社で無農薬栽培し、冷凍せずに使用。フリウリのカンティーナで熟成後にリリースされる「ザ・オリジナル・アイ」は、アルコール11％のエクストラストロング。
