Drink

Drink

飲む

独立や移転などキャリアあるバーテンダーの新展開。新旧定番カクテルが楽しめるバー6選

ここ数年で東京にオープンした、クリエイティブなカクテルが楽しめる新鋭バーの中から、「ベテラン」をキーワードに6軒をセレクト。独立や移転などキャリアあるバーテンダーの新展開。自身の新旧定番カクテルとともに。

photo: Shinsaku Yasujima / text: Asako Ishikawa

BAR PENGUIN(銀座一丁目)

バー〈ラジオ〉の伝統と新たな素材の絶妙な配合

ボトルの前にグラスを並べたバックバーは珍しい。「長年この配置で慣れているので」と、店主の池田高志さん。南青山の〈ラジオ〉で14年、伝説のバーテンダーである尾崎浩司さんに師事した。きっかけは、初めて勤めた店にあったカクテルブック。「こんな世界があるのかと。面接に行くと尾崎さんがテーブルでお花を生けていました」。

思い入れのあるマティーニは「ヴェスパー」で新たに表現。ベルモットの代わりとなるフレーバードワイン「キナリレ」のレシピを調べ、自らインドネシアからキナの樹皮を取り寄せて練り上げた。フキノトウのネグローニや自家製トニックウォーターのジントニックも力作。

銀座一丁目〈BAR PENGUIN〉池田
2018年に独立した池田さん。今注目しているのは、埼玉県北本市で造られる、〈ノヴァ〉の有機クラフトスピリッツ。

Bar Brüder(新宿三丁目)

再構築したクラシックカクテル。ベートーヴェンを聴きながら

同じ新宿三丁目で2022年12月に移転、ダークブラウンから白を基調とした内装に。以前はベートーヴェンの生まれ故郷ドイツがテーマだったが、新店は彼が足繁く通ったウィーンのカフェをイメージ。漆喰調のアーチをバックバーに設(しつら)えた。ステンドグラスやクリムトの壁画は店主・菅野仁利さんとともに引っ越し、変わらず存在感を放っている。

「近頃はクラフトコーラのように、ジンジャーエールを作るバーテンダーもいますよね。今後のテーマの一つになるのでは」と差し出されるボストンクーラーは、ジンジャーシロップを加えてソーダでアップ。ロマン派を中心としたクラシック音楽が流れる中で、古典的カクテルのアレンジを味わいたい。

新宿三丁目〈Bar Brüder〉菅野
新宿〈rit bar〉を経て、2009年に自身の店を開いた菅野さん。

NEW CLASSIC(白金台)

レシピから空間、道具まで古きを覧(み)、新しきを考える

「ジンに潰したフルーツを混ぜ、冷凍庫で固めてシャーベット状に。その後、温度を上げてフィルターで濾(こ)しながら液体に戻します。それをベースにシャンパンで割ったり、リキュールを加えたり」。汐留のホテルに7年勤め、2019年に独立した柏崎哲平さん。店名通り、クラシックなものを現代風にアレンジするのが得意。

マティーニスタイルの「フレグランス」は、香水のように余韻が広がる。店内も青い壁面や湾曲のカウンターなどミッドセンチュリーの世界観と、大谷石や珠のれんといった和テイストが混在する。「“覧古考新”の心からレシピ構成や仕上がりの温度を考えます。道具も金気を感じないプラスチック製に替えました」。

白金台〈NEW CLASSIC〉柏崎
「これからの季節は、桃のジンでベリーニですね」と、店主の柏崎さん。

Bar Leaf(神楽坂)

世界大会の出場経験を胸に。リスペクトが宿る数々のメニュー

“BOWMORE”の文字が映る入口の窓、バックバー、壁面から窺えるスコットランドのパブのような雰囲気。店主・槇永優さんが12年勤務した大阪の〈Bar Leigh Islay〉を思わせる。「10年ほど一人で任せていただいた、好きなお店です。関西で開業するつもりでしたが、さまざまな大会に出場するうちに東京へ進出したくなりました」。

最近よくオーダーされる、“低アルコールですっきり、炭酸と柑橘を使わないもの”を具体化した一杯が「オールデイロング」。メニューには、世界大会『ワールドクラス』で競い合った海外バーテンダーによるオリジナルカクテルも並ぶ。「尊敬の念を込めてオンメニューしています。すべておいしく作れたらかっこいいですよね」。

神楽坂〈Bar Leaf〉槇永
神戸出身の槇永さん。2020年6月にこの店をオープン。

Bar LIBRE GINZA(銀座一丁目)

地下にひっそりと佇む森で“ジャングルカクテル”を

天井を覆う熱帯植物と時折光る流れ星、流麗な鳥のさえずり……。2022年6月、池袋で2店舗のバーを営む清崎雄二郎さんが「銀座の奥地まで探検しに来ていただきたい」と新たに構えたのがこの場所。度数の高いウイスキーを飲みやすくした「クリスタルレイク」は水割りの発想から。シソとディルの蒸留水、ベルガモットシロップ、アシッドウォーターでクリアな色合いに仕上げている。

デコレーションに使うナスタチウムのほか、バジルやボリジも店内で栽培。コンセプトであるジャングルの素材を使った「アマゾンネグローニ」、「猿の朝食」には食用アリやマイクロハーブがあしらわれる。組み合わせも見た目もユニーク。

銀座一丁目〈Bar LIBRE GINZA〉清崎
今年アメリカのウイスキー蒸留所に研修に行ったという、清崎さん。

城.(外苑前)

古い酒、グラス、装飾が誘う日常からのショートトリップ

時代を経ても、味の方向性が変わらないリキュールがある。それらを生かそうと店主の佐藤博和さんが昨年考案したカクテル「優雅に朽ちる果肉と、静かに滴るもの」。熟した桃のような風味と、ほろ苦い甘さが印象的。

作家のフランツ・カフカから〈bar cafca.〉と名づけた店は、2020年に改装したタイミングで改名。限りなく落とした照明や、バックバーに映えるドウダンツツジの陰影、アンティークグラス、今では入手困難なオールドボトル……それぞれの人生を歩む客がふと立ち寄れる非日常の空間を幻想的に演出する。

特に類を見ないのが、コンクリートのカウンターや錫(すず)のコースター。丁寧にグラスを扱わないと大きな音が出てしまう、緊張感もいい。

外苑前〈城.〉佐藤
「〈城.〉はカフカの未完の小説から」と、佐藤さん。