ソジュはハードリカーへ。700年の歴史を誇る蒸留酒としての可能性
この十数年で、アジアの大都市に世界から評価を得るバーが次々と開業した。優れたバーテンダーが注目するのが、ローカルの蒸留酒。グローバルに流通するジンなどにはない風味に、熱視線を送っているからだ。
ここ〈Bar Cham〉も、2024年版「アジアのベストバー50」で20位にランクイン。オーナーバーテンダーのイム・ビョンジンさんは、韓国一のバーテンダーを決める『WORLD CLASS 2015 KOREA FINAL』で優勝した頃から韓国の伝統酒、とりわけソジュ(焼酒)に意識が向き始めた。魅力はラフでパンチのある甘味。個性が立っている分、カクテルの要素にもしやすいと話す。
ソジュは14世紀頃、米が原料のアルコール度数の高い単式蒸留酒として生まれたが、1960年代の食糧難の時代に製造が禁止された。代わりに庶民の友となったのが「チャミスル」「ジンロ」など度数が低い稀釈式ソジュだ。だがそれら“グリーンボトル”の製造も、70年代に「1つの道には1つの蒸留所のみ」との制度が敷かれ、蒸留所数が激減する。
「転機となったのは、88年のソウルオリンピック。海外の来賓に向けて韓国のハイクオリティな伝統酒を提供する必要に迫られ、政府主導で民族酒の再評価が進みました。結果、注目を浴びたのが、ソジュのルーツといわれる慶尚北道(キョンサンプクド)の安東焼酎(アンドンソジュ)です」
91年の規制緩和で、米を原料とするソジュの伝統的な製法が復活。また96年に蒸留所の新設も可能となる。

「国内で伝統製法に基づいたソジュが嗜好品として人気を集め、例えば大企業でも、〈広州窯(クァンジュヨ)〉のファヨや、〈ハイト眞露(ジンロ)〉のイルプムジンロなどは、蒸留式焼酎の普及に大きな役割を果たしています。町の酒場に伝統製法のソジュがあるのが、珍しくなくなりました。また日本でも有名なミュージシャン、パク・ジェボムもソジュをプロデュースしています。
また近年は若い造り手も奮闘しています。その筆頭が京畿道(キョンギド)・九里の〈HWASIMJUJO (ファシンジュジョ)〉。蒸留家のオ・スミンさんは、スコットランドのアイラ島の〈アードベッグ蒸留所〉でウイスキー造りを学んで帰国。スコッチのフレーバーに似たソジュを造りたいと工夫を凝らします。この『HWASIM(ファシン)』は米を炒って蒸留したスモーキーな香ばしさが印象的」
一方で、イムさんが注目するのがソジュの持つローカル性。京畿道・驪州(ヨジュ)の蒸留所〈醸造学堂(ヤンジョハッダン)〉の「西(ソ)」は、地域の名産品として全国的に名高いサツマイモを原料にしたソジュ。
「ヨジュトゥボンチェは、マティーニをアレンジしたカクテル。国産クラフトジンと『西』がベースです。オーセンティックバーって厳かな場所という印象がありますよね。でもサツマイモ由来のソジュを使ったカクテルがあると知れば、少し入りやすくなる気がしませんか?(笑)
あとフードはぜひスユク(ゆでた豚や牛の肉)を合わせてみてください。さまざまな地域のソジュと、その産地の名産を組み合わせ、テロワールまで感じられるメニュー構成にしたい。だからこそ僕は、カクテルにソジュを含めた韓国の伝統酒を必ず使うようにしているんです」
