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ラッパー・Awichはなぜ本を読むのか?人生を飛躍させた4冊を聞く

現在の日本ヒップホップ界で“クイーン”として君臨するAwichさんも、日々の生活に本を欠かさない。「今の世の中は断片的な情報が溢れすぎている」と語る彼女の読書リストは実にユニーク。一見すると方向性が異なる4冊には、自身の中で確固たる共通点があるそうだ。

photo: Kenta Sawada / styling: Masataka Hattori / hair: HORI / make: Chihiro Yamada / text: Keisuke Kagiwada / special thanks: The Tokyo EDITION, Toranomon

「夫が亡くなって娘と日本に帰る時に、ニューヨークに住む私の師匠みたいな女性にもらいました。“今のお前ならすんなり入るはずだ”って」。

そんな言葉とともにAwichさんが自身のバッグから取り出したのは、だいぶ読み込まれたと思しき英語版の『アルケミスト 夢を旅した少年』。一人の少年が宝探しをする中で、人生において大事なものを発見する姿を描いた冒険小説だ。

「この世の全部は自分の鏡だから、周りを変えたければまず自分が変わらなきゃいけないっていうメッセージには、かなり助けられましたね。当時の私は、何でこんな目に遭わなきゃいけないんだ、悪いのは誰だって、すべてに対して悲しみや怒りを抱えていたんです。だけど、これを読んで、そこから抜け出したいなら、まず自分がすべてを許すことからしか始まらないんだと思えました」

「ただ」とAwichさんは言葉を継ぐ。「いくつかのハマったものを除くと、30代に入るまではまともに本を読んだことがなかったんですよ。活字に苦手意識があるので」
にもかかわらず、最近はオーディオブックや電子書籍まで活用して本との距離を縮めつつあるそう。その理由を、「体系的な情報が欲しいから」と語る。

「例えば、私はずっと性とセックスというテーマを追い求めているので、『最高の快感に達するスローセックスの教科書 すべての女性が「感激する」理由85』は読まざるを得ませんでした(笑)。

女の生態を理解するための本ですが、実体験としてわかっていることでも、研究的な裏づけがある言葉に落とし込んだうえで体系化されているので、より理解が深まりましたね。著者のアダム徳永に関しては、彼が男向けに男の生態について解説した本も、男を理解するうえでとても役立ちました」

具体と抽象の行き来こそが人間の知力を最大化する

そんなAwichさんが今、“人生のバイブル”と呼ぶのが『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』と『「具体⇄抽象」トレーニング 思考力が飛躍的にアップする29問』だ。

「『サピエンス全史』はコロナ禍に『中田敦彦のYouTube大学』で知って英語版を読みました。それによると、人類には7万年前に認知革命が起こったんです。だから、今目の前で起こっている具体的な事象だけでなく、俯瞰して見ることで他の事象との関係が理解できるようになったし、思考を別のホモ・サピエンスと共有できるようにもなった。そして、共有できるから、集団行動も円滑にできるようになり、国家とか会社が作れるようになった。

その基盤ができたのが、7万年前。だけど、地球が始まったのって46億年前とかじゃないですか。それに比べたら、ホモ・サピエンスの文明なんてめっちゃちっぽけ。だから、そこで決められたルールや枠組みの中で悩んだり、解決できないことに直面したら、俯瞰して次元を広げればいいんだって思えるようになったんです」

そして、以上の“気づき”をより深めてくれたのが、『「具体⇄抽象」トレーニング』にほかならない。「『サピエンス全史』を読んだ後、とにかく俯瞰して次元を広げることが大事だと思っていたんですね。でも、誰かにそういう話をしても抽象的で伝わらず、“例えば?”って聞かれるんですよ。でも、うまい譬えが答えられなくて。

だから、“例えばの練習”をしなきゃといろいろ読み漁っていく中で出会ったのが、『「具体⇄抽象」トレーニング』。タイトルからドンピシャすぎて叫びました(笑)。冒頭に、人間の知的能力の発展モデルを図形化したものが載っているんですが、それによると、人間の知的能力をフル活用するためには、具体的な事象を一回短い言葉や図などで抽象化して自分の中で思考した後、それをより具体的な問題に落とし込んで理解することが必要なんです。

しかも、私自身読み始めた瞬間からこれは『サピエンス全史』にあった、抽象的に考える力が人間の最大の武器だって話の延長だとは思っていたんですが、実際に文中でもその話が取り上げられていて、マジでつながった。今はまだトレーニング中ですが、どうすればいいかっていうモデルは理解できたので、これからはもっと“例えば”を言えるようになるはず」

話を聞くほど、Awichさんは本に書かれた内容を自分事として捉えることに秀でた人だとよくわかる。では、そこで血肉化したものが、自身の創作活動にインスピレーションを与えるのだろうか。

「私にとって読書って研究なんです。自分や世界を理解するための情報を体系的に得られるソースが本。創作活動はその研究発表みたいなものなんです。今までの蓄積で歌詞を書くこともできます。だけど、本を通して新しい発見があるほど、思考が整理されて書きやすくなるんです」

ラッパー・Awich

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