尾州といえば日本最大の織物の生産地。特に名古屋の北西にある一宮エリアで、最も大きな規模で毛織物を扱うテキスタイルメーカーにてオーラリーの打ち合わせがあると聞き、同行させてもらった。
織機76台、丸編み用30台のほか、染色工場などを有するかなり大規模な企業だ。2019年2月上旬に行われたのは、2020年SSの生地についての2回目の打ち合わせ。「FASHION PRIZE OF TOKYO」受賞により、次回6月のパリコレでの発表が決まっているだけに、重要な局面だ。
岩井良太さんが伝えていた生地のイメージに対して、テキスタイルデザイナーが具体的に提案、サンプルなどを見ながら細部を詰めていく。
「原毛があって、糸にして、織って、加工して、縫製して、売る。それが流れのすべてです。通常は分業制になっていることが多いんですが、この会社の場合は織る、染める、加工するを一貫してできる。規模が大きいから、紡績屋さんと一緒に原毛を買いに行く機会もある。糸から探して生地を作るという贅沢ができるのは、それだけの設備とスケールメリットがあるからなんです」
一昨年はカシミヤの買い付けでモンゴル、昨年はニュージーランドに行きオーガニック認定を受けた鮮度の高い原毛を買い付けたという。材料が良いのは前提として、岩井さんのもの作りはここからだ。
「東京にも支店があって、サンプルとか持ってきてくれるんですが、やっぱり尾州に足を運んで、膨大なストックやアーカイブを見たり、直接顔を合わせて話をすることで、新しいアイデアが生まれることが多くて。僕自身も知識や経験値が蓄積されてきて、より具体的な打ち合わせができるようになってきたんです。
例えば、こういう種類の生地を作りたいというイメージの話から始めるんです。だったらウールの種類はこれを選んで、糸番手はこのくらいで織りましょうと具現化していく。そもそも、ワガママを聞いてくれるところもないし、実現できるすごさがこの会社にはあるんです」
テキスタイルデザイナーの藤原純子さんは取引先としてのオーラリーを高く評価している。
「ここ20年くらいの商売はデフレで、コストに見合った生地が売れるだけでした。ものが売れない時代は、作り手同士がお互いに知恵を出し合わなきゃダメだと思うんです。生地であっても、なぜこれを作るのか、どういう考えでここに辿り着いたのか、ストーリー性が大事になってきます。ほかにはないものを新しく作るという意味では、クリエイティブな時代だと思いますよ」
両者は非常にタイミングよく出会った。岩井さんが続ける。
「オーラリーの母体は生地問屋なんです。一般的には中間に問屋さんが入るんですが、幸いこうして直接話し合いながら作れる。メリットは大きいです。僕自身はウール素材にとても可能性を感じていて、四季それぞれに合った生地を作りたいと思うんです。ですから、こちらの企画担当者の方にいろいろ教えてもらっています」
誰もが企画すれば実現する話でもないようだ。
「生産量の問題がありますからね。綿だったら10〜20反で生産ロットにはなりますが、ウールの場合は小ロットだと商売が成立しないんです。試作ばっかりでは工場も潰れてしまいますからね。
岩井さんは真面目で、数字にも厳しいですから。しかもキチンと消費者に受け入れられて量産され、ビジネスとして成立している。やっぱり彼の努力の表れだし、新しい時代の訪れを感じますね」(藤原さん)
そして、日本のもの作りを守るには関わる人間が高いレベルで連携する必要があるという。
「生地作りにも確実にトレンドがあるんです。そこを意識しないと服は売れないですし、売れるものを作らないと、次の生地発注もできないですから。自分が作りたいもの、お客さんの気分をバランス良く形にしていく作業ですね。
すぐに店頭に並ぶ商品の生産を進めながら、その次のシーズンの展示会を開催して、2年先の糸探しや生地作りを同時並行で進めている感じですね。プレッシャーというより、やり切らないといけないという気持ちで取り組んでいます」