ゼロウェイストに特化した期待のコーヒー&カクテルバーとは?
今年5月30日、渋谷の神南エリアにオープンした〈æ(アッシュ)〉。〈The SG Club〉をはじめ、キラ星のような人気のバーを手がける〈SGグループ〉の最新店舗だ。コーヒーとカクテルを主軸にしたカフェ&バーであり、何より「Zero-Waste(廃棄物ゼロ)」をコンセプトに掲げていることでも話題だ。
ちなみに〈SGグループ〉とは、世界中の全てのバーから50軒のみ選ばれる世界最高のアワード「The World’s 50 Best Bar」の常連であり、最多の受賞歴を誇るバー・カンパニー。代表を務めるのは、自身も「ASIA’S 50 BEST BARS」最高賞等を受賞するトップバーテンダー・後閑信吾氏。
「紙コップなどの消耗品の撤廃や、フードロスの削減は以前から思い描いていたことでした。でも本格的に取り組むためには、オペレーションや食材の仕入れまで全てを一から考え直す必要があった。ようやくこの新店舗で形にすることができたんです」と後閑さん。
メニューやショップカードはQRコードを導入してペーパーレスを徹底し、会計はキャッシュレス。カフェで最も多い廃棄物である抽出後のコーヒーかすは、三浦半島の〈青木農園〉で肥料化し、その肥料で栽培した野菜類をメニューに循環させるほか、コーヒーかすや食材の端材そのものもカクテルの材料として活かされている。
スターバリスタが常駐するという贅沢!
さて、何といってもこの店の主役となるのがコーヒーとカクテルだ。
コーヒーはバリスタ日本チャンピオンである石谷貴之氏が監修し、カウンター内でコーヒーも淹れる。今まであえて自身の店を持たず、ディレクションやコンサルティングに徹してきた石谷バリスタが日常的に店に立つのは、ほぼ初のこと。これはコーヒーファンにとって興奮せずにいられない事態なのだ。
カフェで使用するコーヒー豆は、浅煎りと深煎りの2種類を用意し、浅煎りは〈LEAVES COFFEE ROASTERS〉に、深煎りは〈OBSCURA COFFEE ROASTERS〉に依頼。どちらもブレンドで、その配合は石谷バリスタが監修している。
シングルオリジンでなくあえてブレンドを使用するのも、石谷氏がイメージする理想の味わいを表現するとともに、「ブレのない味を安定して提供できる」というサステナブルな配慮でもある。エスプレッソマシンは、この店の個性に合わせてイタリアのメーカー〈Victoria Arduino〉を導入。
コーヒードリンクはすべて浅煎りor深煎りから選ぶことができ、とくにナチュラル精製のエチオピアを配合した浅煎りは、フルーティーで華やかなフレーバーで、ラテで楽しむのもおすすめだ。
エスプレッソマティーニが看板カクテルとなる、その意義とは?
かたや、カクテルを担当するのは、オリジナルのコーヒーカクテルを競う「Japan Coffee in Good Spirits Championship」で2度の日本チャンピオンに輝いたバーテンダー・大渕修一氏。ここ数年、コーヒーカクテルが注目を集めているけれど、コーヒーとカクテル、その両方にこれほどの実力者が携わる店はないだろう。だから面白いのだ。
大渕氏が手がけるカクテルは、エスプレッソマティーニをはじめとする、コーヒーを活かした「コーヒーカクテル」と、「ゼロウェイスト クラシックス」という2つのシリーズ。「ゼロウェイスト クラシックス」は、〈SG グループ〉の各バーでカクテルを仕込む際に出る、端材などの副産物を活用したオリジナルカクテルだ。
早くも店のシグネチャーとなっているエスプレッソマティーニは、石谷バリスタが抽出したエスプレッソを大渕氏がシェイカーで仕上げるという、まさに“共同作業”。一杯のカクテルを2人のプロフェッショナルの手で作るとは、店としては非効率かもしれないが、だからこそ、どのカフェにもバーにもない、この店でしか味わえない一杯が出来上がる。
通常、バー業界において、クラシックカクテルが新たな店のシグネチャーになることはほとんどないが、「æ(アッシュ)」でエスプレッソマティーニが看板となっていることこそ、その特別さを物語っていると言えるだろう。
再利用の素材が生む、未知のクラシックカクテル
「ゼロウェイスト クラシックス」は、コーヒーの“二煎目”やコーヒーチェリー(以前は廃棄されていたコーヒー豆の果肉部分)を使用した異色のハイボールや、オリーブを再形成したその名も「キメラオリーブ」を加えたマティーニなど、その発想の一つ一つが実に楽しい。コーヒーチェリーは独特の甘酸っぱい酸味を活かし、おやつ部門のカヌレやコーヒーフロートのアイスクリームにも活用されている。
23時までの営業なので、夜の時間帯はバー利用はもちろん、食後に「うまいコーヒー」を求めて立ち寄る人も多いとか。確かに今の東京において、深夜まで上質なスペシャルティコーヒーを出してくれるカフェは希少だ。〈The SG Club〉〈swrl〉〈SG Low〉といった同グループの姉妹店も徒歩数分の場所に点在しているので、ハシゴする楽しみもある。
〈SG グループ〉が体現する「ゼロウェイスト」への取り組みは、スタイリッシュで楽しくて、そして最も大事なことだが、どれもがシンプルにおいしい。コーヒーの新たな可能性を発信する場所として、大いに賑わいそうだ。