毛利悠子
TikTokを今回初めてダウンロードしてみました。アプリ自体触ったことがなかったので、ぞのさんっを最初にフォローしました。というか、ぞのさんっしかフォローしてませんけど(笑)。
ぞのさんっ
光栄です(笑)。
毛利
いろんな場所で撮影されているんですね。海とか山とか、眺めのいいホテルとか、島とか。
ぞの
いつも転々として作品を撮っているんです。例えば今週は、東京から名古屋へ行って大阪へ行って東京に戻って栃木へ行くとか。仕事で移動することも多いので。
毛利
じゃあ、お仕事をしながらTikTokもやっているんですか?
ぞの
今は、動画を作って投稿することが仕事になっていて。
毛利
ああ、TikTokの中でお仕事もされてるんだ。じゃあ、眺めのいいホテルの動画もお仕事?
ぞの
もともと仲間と一緒に奄美大島で作品撮りをしようと考えていたんですが、TikTokに投稿するなら部屋を提供しますよと。
毛利
めちゃくちゃ面白い仕事じゃないですか!
ぞの
だから仕事といっても作品作りの延長なんです。
毛利
チームでやっていらっしゃるんですか? 仲間と一緒に奄美へ行ったとおっしゃいましたけど。
ぞの
僕はもともと会社員で、大学を出て建築系の会社に就職して、5年ほど勤めて。で、辞めて起業したんです。宿泊系の会社を。なので、コアメンバーは5人くらい。そのとき動ける人と動画を作って発信するということをやっていて。
毛利
起業されたんですね。
ぞの
はい。でも、起業したら、コロナ禍で仕事がなくなってしまったんです。あり余る時間をどうしようと思ったときに、TikTokが盛り上がりつつあったので、映像系の友人たちと一緒に発信しようということから始まって。
毛利
コロナきっかけなんですね。じゃあ、この活動を始めて……。
ぞの
1年ぐらいです。
毛利
1年!
ぞの
何かをしないといけないなと思ってやりだしたので。
毛利
すごい! だって、コロナで絶望したわけじゃないですか。それこそ宿泊業の人たちは、みなさんとってもご苦労されて。そんなときに機転を利かせたんですね。
ぞの
周りもベンチャー系の人たちが多く、チャレンジングな業界なので、みんな切り替えていたんです。チャンスだと言う人も多く、僕もこの試練を前向きに捉えて。
毛利
へえ〜。
ぞの
以前からTikTokはやっていたんですが、これを機にちゃんと取り組もうと。スマホ一台あればこんなに素晴らしい映像が撮れるんですよというのを、メイキングと一緒に見せるコンセプトで。ただ、SNSってせっかくいいものを作っても誰にも見てもらえないことがあるんですが、TikTokは独自のレコメンドシステムがあって、面白ければどんどん拡散されていくアプリなので、バズったときにすごく多くの人に知ってもらうことができた、というのが大きいです。
毛利
ウィル・スミスにシェアされたことでぞのさんっの動画が世界中に広がったと聞きました。
ぞの
めっちゃうれしかったです。ステイホームで寝て起きてまた寝る日々というループ動画を作ったらむちゃくちゃバズったんです。
毛利
そのバズりを知りたい。虎の巻を(笑)。先日、千葉の海に行って。昇る朝日を動画で撮ったら、とってもキレイに撮れたので、これを初投稿しようと。イケるだろうと。なんの確信もないのに。で、TikTokって曲が選べるじゃないですか。そこからエンヤの曲を選んでつけてみたらすごく神々しくなって(笑)。誰も観てくれないなと思いつつ、それでも、300回くらいは再生されたのかな。フォロワーは誰もいないけど。
ぞの
TikTokはユーザーにやさしく設計されていて、初めての人でも一定数再生されるようにできているんです。だからアップしてゼロってことはなくて。観てもらいやすいのはあると思います。
毛利
朝起きたら、全然知らない人が「明日も仕事がんばろ」ってコメントを書いてくれて(笑)。
ぞの
ははははは(笑)。でも、めちゃくちゃいい景色でエンヤが流れたらみんなそう思いますよ。
毛利
ちょっと楽しかった。ぞのさんっにとって、TikTokの一番の面白さって何ですか?
ぞの
やっぱり拡散力ですね。これから動画をやりたい人、クリエイティブなことを発信したい人にはすごく向いてると思います。たとえフォロワーがゼロでも面白ければ再生回数は伸びる。みんなスワイプでどんどん観ていくので。TikTokの動画は最長1分なんですが、おそらくみんな1分も観てなくて、バーッと流していくんです。そういう意味では再生回数も上がりやすいんですが、逆に、最初のツカミがないと流されてしまう。クリエイターはみんなそこを意識して発信してると思います。
毛利
ていうか、ぞのさんっになられて、歴はまだ短いじゃないですか。建築の会社に勤務され、宿泊業で起業されたというのは、具体的にどんなお仕事なんですか?
ぞの
例えば、ホテルを伴う大きな建物を造ったときに、そこでどんな事業をすればいいかというのを考えるんです。どんなテナントを入れるのか、客室は何個あればいいのか、単価とか稼働率とかを考えてプランニングをするんです。
毛利
分析が得意?
ぞの
いや、というより、今僕がやってる動画もそうですが、基本的に感覚的な人間なので、作品を作る方が好きなんです。そういった建築関係のことをやりながら、意匠デザインを学校では学んでいたので。毛利さん、フランスのポンピドゥー・センター・メスで展覧会をやられましたよね。
毛利
そうです、やりました。
ぞの
あの建物、すごく好きなんです(注:坂茂とジャン・ド・ガスティーヌによる共同設計)。そういった建築が好きな傍ら、稼働率はどうかとか単価はどうだとかそういうこともやってたので、わりとバランスを取るというか。
毛利
じゃあ、今はコロナきっかけで表現活動にシフトをしてしっくりきてる感じですか?
ぞの
そうですね。僕のチームにはいろんなジャンルの人が関わっているので、それこそ、ホテルの空間をどう見せたらいいかとか、景色がいいかとかを考えるので、経験が生きてるなと思います。
毛利
でもそこで、「映像だ!」と思ったキッカケは何だったんですか? もともと撮るのが好き?
ぞの
旅行が好きというのが根底にあって。景色を見るのが好きなんです。建物があって、街があって、人がいて、そういう風景が好き。だから、ドローンで撮った映像を初めて観たとき、すごく感動したんです。鳥の視点で見るとこんなふうに見えるんだと。めちゃめちゃカッコいいなって。で、ドローンを始めたんです。
毛利
ああ、カメラじゃなくてドローンからいったんだ。
ぞの
ニコンの一眼レフももちろん持ってましたが、それは写真ベースで、映像はドローンから。空撮に凝りました。そして、そこから地上に降りてきて。空から降りてきたタイプなんです、僕(笑)。
毛利
じゃあ、映画好きだからトリッキーな映像に凝ったということじゃなく?
ぞの
絶景が好きなんですよ。
毛利
絶景だ。
ぞの
だから、建築もガラス張りの奇抜な建物より、街に溶け込む系が好きで。建物を含めた全体の景色が好きなんです。
毛利
じゃあ、面白い景色があったとして、それを映像に撮ってどうやって発信するかというような思考回路になっているんだ。
ぞの
そうですね。
毛利
それでTikTokにうまくハマったわけなんですね。
ぞの
やっぱり絶景って、わっと見た一瞬に感動するものなので、それを1分の作品に凝縮するのはすごく合ってるんです。
毛利
そういう場合、何を参考にして映像作りをするんですか?
ぞの
海外のクリエイターの作品ですね。ウィル・スミスさんにシェアされたとき、トップクリエイターたちにもシェアされて。そのとき、僕は彼らのことを全然知らなかったんですが、観てみたらめちゃくちゃおもろい人たちがたくさんいて。すごいんです。映像がスタイリッシュでおしゃれで。
毛利
おすすめのクリエイターはいますか。
ぞの
ザック・キングさん。手品系のVFXをよく使う人で。どうやって撮っているのかまったくわからないんです。もう一人は、ジョルディ・コアリティックさん。スペインのクリエイターで写真がものすごく美しいんです。彼は先端を走ってるんで、環境系のコンテンツもめっちゃあげていて。
毛利
メッセージが入ってるんだ。
ぞの
ヤバいっす。僕もそういうことをもっとやりたいんです。もともと建築とエネルギー問題に関心があるので、脱CO2とか、そういうことを発信していきたいなという思いはすごく強くて。
毛利
なるほど。なかなかメッセージがあっても、1人でやっているだけでは広がらないけれど、ぞのさんっはたくさんフォロワーがいるから影響力が持てますよね。
ぞの
そうなんです。今は、そういうメッセージを発信できる場になりつつあるなと思ってます。
毛利
素晴らしいなあ。じゃあ、今は、それをどうやって表現し、作品として昇華するのかというところなんだ。それで、いろんな場所へ出かけたりするんですね。
ぞの
だから大変です。やりたいことがいっぱいありすぎて。体が3つぐらい欲しいっすね。
毛利
ぞのさんっスリー(笑)。常に動画をアップされてますもんね。朝起きると「ぞのさんっが新しい動画を投稿しました」ってメッセージが来てるから、あ! まただ! はやっ! って(笑)。
ぞの
移動中の新幹線でも編集はできるので、作業は止まらないようにはしてますが、大変です。でも楽しい。最近は毎日投稿というより、やりたいことをやって、撮りたいものを発信しています。
毛利
私はずっと表現活動を続けてきていて、自分だけのタイムラインでやってきたから、みんなについていくのが得意ではないんです。でも、時代がこうなってきたときに、そうも言ってられないなと。やっぱり何も知らずに世の中が変わっていくことに危機感を覚えるんです。今回を機に、新しい世界を学び始めていますが、それはエキサイティングなことであり、怖いことでもあり。波に乗ってる立場としてはどうですか?
ぞの
僕の場合、作品を観てもらえるところにやっぱり喜びがあって。作品の良し悪しよりも、まずは、発信して観てもらうということが一番大切かなあって。
毛利
なるほど。私もちょっと頑張ってみようかな。
ぞの
でも、毛利さんのフィールドの現代アートをTikTokで表現するってむっちゃ難しいことじゃないですか?
毛利
この間、マウリッツィオ・カテランという現代アーティストが、「映える」作品だけを集めた個展をやったんです。すると、観に来た人たちはみんな作品を背景にしたTikTokしかやってなくて、その現象そのものが作品だと。そういう行為を通してアートとTikTokが融合していくのはありなんじゃないかなって。つまり、アート表現が生活の中に進入していくことはすごく面白いことだなって。それがどんどん若い人につながって、未来につながっていくのは希望があるなあって。
ぞの
大人が理解できない子供の楽しみってあるじゃないですか。それが僕は面白くて。自分は今29歳で、「一体何が面白いの?」という大人の気持ちもわかるし、10代がこれにハマる気持ちもわかる。だからTikTokをしている部分もあって。やっぱり、今の若い子たちが何に興味があるかというのは、次の時代を知ることになりますから。今は幅広い世代が使うようになってきたので、次のフェーズに移行した感もありますが。
毛利
大人にはわからない世界。
ぞの
だって、わからないじゃないですか(笑)。
毛利
わからない。正直、ダウンロードをしてみたものの、どう使うべきかと戸惑っていて。何が面白いんだろうって(笑)。
ぞの
でも実は、何が面白いの? って言われているぐらいのコンテンツが作り手やフォロワーには一番面白いと思うんです。
毛利
なるほど。「わからない」ことが「面白い」。あ、なんか、ちょっとわかってきたぞ(笑)。
ぞの
しかも、その「わからない」ノリが世界中に広がる。このちっちゃい端末から、非言語で世界の人たちとつながっていくんです。
毛利
それこそ、ウィル・スミスにリーチしたわけですもんね、ぞのさんっは。何やってんだ、と世界中の人が突っ込むんだ。
ぞの
そう。だから、見せ方とかもわかりやすさを意識します。それこそアートって伝わりにくいことがあると思うんですね。それを毛利さんがわかりやすくTikTokの1分で見せようと思ったときに、めちゃめちゃ頭を使うと思うんです。するとだんだん見せ方がうまくなってきて、大衆に刺さるようなものが作れるようになるんです。
毛利
なるほど! それがバズるということか。つまり、限られた時間内で、しかもツカミを考え、自分の表現をどう修正していくのか、これにどう集約していくのか、というクリエイション。
ぞの
表現したいことをどうTikTokに落とし込むのか、あるいは、TikTokありきで作品を作るのか、そのどっちかでしょうね。
毛利
私がやるなら前者かな。やってみようかなあ。自分の表現をTikTokに合わせたらどうなるんだろう? しかも1分だもんね。それに合わせて考えていくというのは面白い作業だなと思うけれど。
ぞの
ただ、真逆のことを言うと、現代アートの稀少性やブランド性を考えたとき、そこまで多くの人にシェアすることが果たして必要なのかとも思います。広がりすぎると個性が消えていく可能性もありますから。
毛利
大衆化するとエッジが取れて丸くなることもありますもんね。
ぞの
それって、軽自動車をたくさん造るのか、フェラーリを一台造るのかの違いなんですよね。僕も起業して経営者でもあるんですけど、アーティストでいたいとも思っていて。でも、この両軸って正反対なんです。絶対に交わらない。だから、どこかのタイミングでどっちかに振り切らないといけないだろうなと。流行り廃りのスピードも速いので、今の状態が続くとは思えない。次は何をするのかというのは常に考えてます。今や忘れ去られたタピオカのようにはなりたくないので(笑)。
毛利
どんなことを考えてます?
ぞの
大きなところでは、CO2削減をテーマに、風力発電や電気自動車を使ったスマート生活の動画を作りたいなと。そして、ゆくゆくは、アップル社やテスラ社といった企業とコラボレーションできれればいいな。と。
◀ はじまりは、TikTok 01 伊吹とよへ(インタビュアー・岡宗秀吾)
◀ はじまりは、TikTok 03 聖秋流(インタビュアー・長田杏奈)
◀ はじまりは、TikTok 04 みゅう (インタビュアー・カツセマサヒコ)
◀ はじまりは、TikTok 05 KEVIN’S ENGLISH ROOM(インタビュアー・龍崎翔子)
TikTok