カツセマサヒコ
みゅうさんは2016年にNHKで行われたファッションショーに出たのをキッカケにモデル活動を始められて。
みゅう
そうですそうです。
カツセ
TikTokを始めたのは?
みゅう
去年の4月です。コロナ禍が来てモデルの仕事がなくなってしまい、空いた時間をどうしようと思ったとき、TikTokを勧められて。最初は何をしていいかわからず、過去の旅行で撮ったものをアップしてたんですが、車椅子とか関係なく、結構普通に観てくれてるんだなあと思って。
カツセ
楽しい場所とか、きれいな景色とか、おいしいものとか。
みゅう
そう。それで、だんだんと全身がわかるようなものをあげるようにしていったんです。すると、車椅子の人って本当はどうなの?どんな生活をしてるの?どんな対応をしたらいいの?というコメントが増えたんです。私自身はそういう質問がイヤだと思ってないし、車椅子になって知ったことはすごくたくさんあるし。手伝ってほしいとか、啓蒙したいとか、そういうことではなく、ただ、知ってもらいたい。知ることで障害者と健常者の壁がなくなるんじゃないかって。それで、質問に答える系になっていったんです。
カツセ
こんな質問にまで?ということにも答えるじゃないですか。「トイレのときはどうするんですか?」とか「寝るときは?」とか。
みゅう
そんなことにまで答えなくていいよっていうコメントもあるんです。「やさしさ」で。でも、気になったことを聞いてくれるって大事なことだと思っていて。子供の頃って、不思議に思ったことってなんでもすぐ聞くけど、大人になると、気を使って聞かなくなるじゃないですか。でも私は、そういう「やさしさ」によって、心底わかり合えてない部分もあるんじゃないかと思っていて。私は、障害者と健常者の間にある壁を壊したいんです。そのためにはまず、既成概念を取り除くことが必要だなって。聞かれるのがイヤな人はもちろんいるけど、私は別にイヤじゃないし、答えられる範囲でしか答えないので大丈夫。逆に、知らないことで壁があるということに気づいてもらいたいので積極的に答えたいんです。だから、かわいいとか、ファッションが好きとかでいいんです、入口は。そういうところから入ってもらって、ああ、車椅子の人って、こういう生活をしてるんだって、TikTokを通して気軽に知ってもらえればいいなって。
カツセ
ものすごくオープンな考え方ですよね。その強さの原動力ってなんですか?
みゅう
なんだろう。基本、ポジティブです。物事を悲観的に捉えない、というのはあるかな。
カツセ
子供の頃からそんなふうに積極的でしたか?
みゅう
そうですね。私、テレビっ子だったので、テレビドラマの制作現場で働きたかったんです。大道具さんになるのが夢で。いまはモデルやTikTokで表に出ることをしていますが、裏方志望だったんです。ものを作ったりする細かい作業が好きなので。
カツセ
意外!めちゃめちゃ表に出たい人かと思ってました。
みゅう
全然。小学校5年生の頃から大道具さんが夢。
カツセ
将来の夢としては少しマニアックですよね。なぜ大道具さんに注目を?
みゅう
私はもともと名古屋出身なんですが、小学生のときに千葉に引っ越したんです。最初は方言がなかなか抜けなくて。小学生の頃って、イントネーションが違うだけで仲間はずれにされてしまうじゃないですか。私もイジメに遭ってしまった。それで、テレビドラマをよく観るようになったんです。ドラマって役者さんが標準語をしゃべるので自然と覚えられるんです。
カツセ
確かに。バラエティだと芸人さんが関西弁をしゃべってますもんね。
みゅう
そうなんです。で、あるとき、年末の特番でドラマNG集を観たんですね。すると、役者さんの背後でセットチェンジをしたりしているスタッフさんに目がいって。調べてみたら「大道具さん」という仕事だと。そこからなんです。だから、小学校のときも中学校のときも卒業文集の夢は大道具。高校を卒業したら専門学校に行こうと決めていたんです。でも、高校1年のときに事故に遭って、両脚をなくしてしまって。
カツセ
そうだったんですね……。
みゅう
どうやって立ち直ったんですかと、それもTikTokでよく聞かれることなんですが、ドラマティックなエピソードがないんですよ(笑)。脚をなくしたことで落ち込んだことって一回もないですし。というのも、事故でずっと意識を失ったままで、気がついたら脚がなかった。あ、脚だったんだって。それよりも生きてることの方がビックリ。だから落ち込まなかったのかもしれません。しかも、脚がなくて困ることってそんなにないんです。高いところに届かないのでエアコンの掃除ができないとか、ジェットコースターに乗れないとかぐらい。
カツセ
どこまでもポジティブだ。
みゅう
ポジティブです(笑)。だから、「NHKの番組に出ませんか?」と声がかかったときも、私はモデルをやりたかったわけじゃなく、テレビの現場を見たいと思ったので、参加します、と。
カツセ
社会科見学みたいに。
みゅう
そうです。多くの人に観てもらえれば壁もなくなるかなという思いもありましたし。ただ、やっぱり、障害者や福祉に関心のある人やその関係者しか観てないので、広まった感がまったくなくて。ごく普通の、一般の人たちに向けたイベントに積極的に出るべきだなってそのとき思ったんです。
カツセ
特別枠ではなく。
みゅう
「男です」「女です」「会社員です」くらいの当たり前の感じで、「葦原海(あしはら・みゅう)さんです」って。なので、いろんなイベントに普通にMCとして出たりとかもよくしてます。いまはSDGsで頑張ってるねと見えるかもしれないけれど、これから生まれてくる子たちにとっては、歩ける人もいれば車椅子の人もいる、という光景が当たり前の世の中になればいいなって。
カツセ
そういうときにTikTokは有効ですか?
みゅう
有効です。TikTokってフォローしてなくてもランダムに出てくるので、福祉関係に興味がない人の目にも触れるんです。面白いのは、TikTokをやるようになって、声をかけてくださる人が圧倒的に増えたんです。老若男女、小学生もOLさんもおじいさんもおばあさんも。「あ、TikTokのみゅうさんだ」って。たぶん、車椅子ユーザーに声をかけるのは初めてという人が多いと思うし、何か手伝いましょうか?という声かけではなく、知ってる人だから声をかける。それってすごくフラットな行為だし素敵なことだなって。いま、フォロワーさんが30万人いるんですが、有名になったぞということじゃなく、私がインフルエンサーとなることで、心がバリアフリー化するのがうれしいんです。
カツセ
1年間発信し続けた甲斐がありましたね。そこでの新たな発見のようなものはありますか?
みゅう
若い子たちの方が既成概念にとらわれていないぶん、視野も広いし、私のことを普通の女の子として見てくれてるなというのは感じます。例えば、60代ぐらいの方から、「みゅうさんの姿を見て頑張ろうと思いました」というコメントをいただいて、それはそれでうれしいんですが、「五体満足の僕が元気を与えなくちゃいけないのに、逆に元気をもらってしまいました。すみません」って恐縮されて。
カツセ
ああ、言いそう!
みゅう
それって、健常者が障害者を助けなくちゃいけないという思いが強く、障害者は弱い存在という思い込みがあるから、そういう言葉が出るんだろうし、大人の方が既成概念の影響が強いんだなって。若い子たちは、「洋服どこのですか?」とか「メイクのやり方動画をあげてください」とかなんです。すごくフラットでいいなって。
カツセ
でもいいコメントばかりではないこともあったりしませんか?
みゅう
TikTokって他のSNSに比べるとコメントしやすいんです。書き込みやすい。だからその気軽さでいろんなコメントも入りやすい、という部分はあるかも。
カツセ
アンチがきたときはどう対処するんですか?
みゅう
すごく少ないですが、それは誤解されている場合がほとんどなので、「これはこういう意味ですよ」ということを説明するんです。すると「ああ、勘違いしてました」と納得してくれたり。
カツセ
放置せずにちゃんと対応する。
みゅう
あきらかに誤解してると思ったものはそうします。よく思うのは、いいコメントが10個並べば後に続くコメントは全部肯定的なものになる、ということで。同調しやすくなるんだろうと思うんです。コメント欄が批判的なものが多ければそっちになびくし、肯定的なものが続いていればそっちになびく。それって非常に日本人ぽいなと思うんです(笑)。でももちろん、いろんな意見があってしかるべきだと思ってやっていますから。
カツセ
でも、その幅の広さこそがTikTokなんでしょうね。
みゅう
まさに。TikTokがありとあらゆる層の人にリーチしてるからなんです。これがもっと広がれば、「車椅子ユーザーのみゅうさん」が珍しい存在ではなくなるんじゃないかなって。あと、建築を学ぶ学生さんから「車椅子ユーザーの感想がわかってとても勉強になりました」というコメントをいただいたこともあって。ほかにも、「トイレのときはどうするんですか?」って勇気を持って質問してくれた人、ありがとうって思いました(笑)。
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