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昆虫を採集し、食べるとは?レストラン〈ANTCICADA〉の食材調達から昆虫料理ができるまで

レストランのスタッフが食材にこだわり産地まで赴く、という動きが昆虫食にもある。「昆虫は地球の恵みの一部」という哲学を持つ“地球料理”レストラン〈ANTCICADA〉の食材調達から昆虫料理ができるまでを密着。

Photo: Kazuharu Igarashi / Text&Edit: Chisa Nishinoiri

馬喰町にあるレストラン〈ANTCICADA〉は、昆虫食の最先端を行くレストランだ。「昆虫は、肉や魚や野菜と同じ地球の恵みの一部」と考え、10品ほどの華麗なコース料理として提供している。例えばこの季節、コースの幕開けを飾るのが「ハチの子のスープ」。どんな見た目の料理かと、期待で胸を高鳴らせている客の前に現れるのは、思わず目を見張るほど美しいフレンチの一皿にほかならない。

幼虫と、前蛹、2段階を楽しめるハチの子のスープ
複雑な旨味の幼虫と、まったりした旨味を持つクリーミーな前蛹(ぜんよう)、2段階を楽しめるハチの子のスープ。
幼虫と前蛹は昆布だしでさっとゆでる
幼虫と前蛹は昆布だしでさっとゆでる。

食材となる昆虫はどこから来るのか?例えばカイコは繭から糸を紡ぎ終わった後に残るさなぎを製糸場から譲ってもらったり、本職の昆虫ハンターと一緒にザザムシを捕りに行ったり。代替タンパク質として注目されているコオロギは、コオロギ研究の最前線を走る徳島大学発のベンチャー企業らと提携し、おいしいコオロギを養殖して様々な食材に加工。

害虫とされるハチやフェモラータオオモモブトハムシ(通称フェモ)も貴重な食材。信頼する駆除業者と連携し、食材として生かすために殺虫剤を使わずに捕獲して料理として振る舞う。「捕獲した虫は余すところなくおいしく使い切る」のが〈ANTCICADA〉のこだわりだ。

今回は、スズメバチの駆除業者・みどり産業の熟練ハンターのオオスズメバチ駆除に同行し、ハチの巣を捕りに関東某所へ。

防護服に身を包み、チェーンソー片手に獲物を持ち帰るハンター
防護服に身を包み、チェーンソー片手に獲物を持ち帰るハンターの姿は、さながら宇宙からの帰還者。

「猛毒を持つスズメバチは駆除対象になる害虫ですが、みどり産業さんは殺虫剤を一切使わず、ハチをすべて生け捕りにします。危険な作業ですが、昆虫に関する豊富な知識、長年蓄積されたノウハウと高い技術力があってこそ。彼らにとってハチは駆除対象であると同時に、幼い頃から食べ親しんできた大切な食材でもある。だから殺虫剤なんてもってのほか。ただ駆除するのではなく、食材として生かし、自分たちで食べたり、お店に提供したりしています。彼らの考えに共感して、私も弟子入りしています」と、〈ANTCICADA〉で食材調達を担当しているハンターの豊永裕美さん。

みどり産業のみなさん。左から、ハチをこよなく愛する親方の田迎真人さん、豊永さん(ANTCICADA)、この道53年のベテラン内田優さん、若手ホープの松原暢明さん
みどり産業のみなさん。左から、ハチをこよなく愛する親方の田迎真人さん、豊永さん(ANTCICADA)、この道53年のベテラン内田優さん、若手ホープの松原暢明さん。

オオスズメバチは地中や木のうろなどに巣を作るので素人には簡単に見つからないのだが、そこは熟練ハンター。餌を運び帰る働きバチを追いかけ、飛ぶ方向や飛び方、ハチの数などで巣までの距離と位置を予測して、巣を特定。巣の入口に自作の“おっかぶせ網”を被せてハチの出入りを封じ込め、付近を飛び回るハチは虫捕り網で生け捕りにしていくのだ。

容赦なく襲いかかってくるオオスズメバチは脅威だが、実は毒針を持つのはメスだけ。周辺を飛び回っているオスは針を持たないので刺さないのだそう。作業を始めて20分ほどで、地中から見事なハチの巣を発掘!巣の中には、さなぎが眠る純白の繭と、栄養を蓄えた幼虫がたっぷり。

毒針を持たないオスのハチ
毒針を持たないオスはメスに比べて顔もカラダも小ぶり。

こうして捕獲したハチの子は生きたまま店に持ち帰られ、おいしいスープになる。生態系への畏敬の念を持って、地球が育む生命を食す。それはジビエに勝るとも劣らない身近で尊い自然体験なのだ。