季節を感じ、願いを込めて食べたい「あんこ歳時記」

iillustration: Yumi Uchida / text: Yuko Saito

雛祭りには草餅、彼岸にはぼた餅、端午の節句には柏餅……。日本には、一年を通して、無病息災や健康長寿を願うたくさんの行事があり、あんこ菓子はそうした行事や季節と密接につながっている。そもそもあんこの材料、小豆は、赤い色が邪気を祓うとされ、古くから縁起が良いとされてきた食べ物。さらに、意匠や用いる材料などにも由来や意味があり、そこには先人の願いが込められている。歴史や由来を知って口にすれば、いつものあんこ菓子がもう一つ、味わい深いものになるはず。

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4月/卯月

桜餅は、江戸の頃から変わらぬ、桜の季節の定番菓子。

桜の季節は、なんといっても桜餅。その名は古くからあったが、あくまで桜の花を象ったもの。今のような桜の葉の塩漬けで包む形が生まれたのは、江戸幕府8代将軍・徳川吉宗の時代で、向島の桜の名所に立つ長命寺が発祥と伝えられる。瞬く間に江戸を代表する銘菓になり、関西にも伝わった。江戸時代には、花見の風習が庶民の間に広まっている。桜の名所の近くには、茶店が立ち並び、そこで桜を眺めながら、菓子を楽しむようになった。

桜餅
花見〈桜餅〉

小麦粉を焼いた生地であんこを包み、塩漬けの桜の葉で巻いたものが、長命寺に始まる桜餅。1830年代に大坂へ伝わり、関西では、桜色に染めた道明寺生地のものが多い。

11月/霜月

多産なイノシシにあやかって、病気になりませんようにと、亥の日に餅を食べる。

旧暦10月の亥の日に餅を食べると病気にならない、という古い言い伝えにちなんだ菓子が、亥の子餅。多産なイノシシは、かつては豊かさの象徴だったという。11月に催される茶席には、その亥の子餅と、織部饅頭を茶菓子とするところも。そのほか、秋の風物詩である紅葉狩りを意匠とした菓子、京都などでは銀杏餅も並ぶ。

亥の子餅
旧暦10月(現在の11月)の亥の日〈亥の子餅〉

イノシシの子を形や焼き印で表した菓子で、店、地方で仕立てはさまざま。『源氏物語』にも登場する古い菓子。小豆、大豆、大角豆、栗、柿、ゴマ、糖(飴)を材料としたとする文献も。