テーマ:思い合う2人
藤津亮太
最初のテーマは「思い合う2人」。ボーイミーツガールという言葉もあるけど、同性の関係を描いたものも多いので。僕は『同級生』('16)を挙げたい。少年たちの恋愛を真面目に描いた物語もいいし、何しろアニメ力、つまり作画と美術による表現の繊細さがすごい。BLものの中でも頭一つ抜けていて、何度でも観られる。
青柳美帆子
繊細さで言うと『リズと青い鳥』('18)もずば抜けた作品です。
藤津
主人公の女子2人の距離感が、2人で歩く姿や瞳のアップから匂い立ってくる。映像言語が巧みなんですね。
青柳
特に無音の場面。自分の呼吸と鼓動がうるさいという感覚を味わえる。そして、この流れで薦めるなら『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』('21)。アニメ映画はテレビシリーズを観てないとわかりづらいものもありますが、これは事前知識ナシで楽しめる。私はシリーズ初見で劇場に行って超号泣。ド傑作だと確信しました。
高橋克則
監督でいうと新海誠はキャリアを通じて「思い合う2人」を描いてきた作家ですよね。近作『天気の子』('19)まで一貫している。
青柳
「世界か彼女か」という二択を突きつけられた時に彼女を選んじゃうっていう、ボーイミーツガールの話において、それまでに意外となかった答えが描かれているのが衝撃だった。あとは、世界が一瞬でまるっと変わってしまう結末も、コロナ禍を経た今だと、全く意味が違って見えますね。
藤津
素直に推せるのは『ジョゼと虎と魚たち』('20)。原作と違って、「車椅子の女の子と健常者である主人公の男の子のイーブンな恋愛とはどういうことか」を、すごくしつこく描写している。思い合っていたようで実はどれほど非対称だったか、というところまで追い詰めているんです。
高橋
だから後ろ姿の画(え)が多い。
藤津
頭の高さの違いを見せるんです。
高橋
登場人物の等身大の悩みを描く一方で、背景美術は筆のタッチを残すなど、必ずしもリアルに寄せてはいないのも面白いですよね。車椅子で逃げだすジョゼの目の前の景色が、まるで“絵”そのものに見えることで、どこへも行けない閉塞感が表れている。
藤津
映画的な嘘と、恋愛の段取りのリアルさが混然としているんですよね。
恋愛じゃなくても、わかり合えなくても
青柳
『花とアリス殺人事件』('15)はどうですか?
藤津
いいですね。岩井俊二監督の実写映画の主人公2人が、実はどう出会っていたのかを描いている。人間の動きを撮影してトレースする“ロトスコープ”で作っていて、バレエのシーンなんかも凝ってて見応えがあります。
青柳
友情なら『劇場版 少女革命ウテナ アドゥレセンス黙示録』('99)。世界にとらわれた女の子アンシーを解放し、世界から脱出するためにウテナが車になるという展開に爆発力がある
藤津
それとは逆に、思い合っていてもわかり合えない2人というのが『王立宇宙軍 オネアミスの翼』('87)。モラトリアムの若者が宇宙軍で戦う話なんだけど、実は当時ごく一部の作品に「都合の悪いヒロイン」を描く機運があったんですね。超可愛くて優しいのに自分には恋愛的興味を全く抱いてくれない女の子、みたいな。その流れで「絶対に手の届かない、他人としての女の子」が描かれている。
高橋
同時期の『妖獣都市』('87)は大人の恋愛で、濡れ場もある。それが単なるサービスシーンではなく、きちんと物語に回収される構造が面白い。
藤津
あとは古典中の古典『白蛇伝』('58)をぜひ観てほしいな。国産初の長編カラーアニメですが、森繁久彌と宮城まり子の2人だけで全登場人物を演じている名人芸がいいんです。
青柳
『AKIRA』('88)はどうですか?初めて観た時、鉄雄がどんどん道を踏み外していく感じが私はすごく面白かった。鉄雄がやたら金田に執着している印象を受けて、巨大感情の映画として楽しみました。
高橋
なるほど、あれは巨大感情が爆発して可視化されたものなんですね!