テーマ:フェティッシュ
あるポイントで監督の譲れないこだわりが炸裂した個性派たち
青柳美帆子
次のテーマは「フェティッシュ」。
藤津亮太
作り手の特別なこだわりを感じる作品ですね。
高橋克則
であれば、新海誠の声について語りましょう。新海さんは自分で声を演(や)っていて、それが新海作品の真髄。ゴダールに象徴されるように、映画作家は自分で声を入れてこそなのです。
藤津
言い切りましたね。
高橋
『ほしのこえ』('02)の「なんだか、バカみたいな話だ」というセリフが胸キュンなのは、新海さんの声だからです。短編の『彼女と彼女の猫』('99)では猫の声をやっているし、『天気の子』でも自分で声を吹き込んだビデオコンテを作ってキャストたちに渡している。ということは、今後、新海作品に出る声優は、新海の芝居をあらかじめ内在化させてから演じることになるわけです。
藤津
『Colorful』('10)の原恵一監督もフェティシズムというか……。
高橋
意志を感じる監督ですよね。アニメの舞台になった土地を訪れる、いわゆる聖地巡礼と呼ばれるムーブメントは2000年代後半に本格化したといわれますが、『Colorful』で映し出されるのは再開発中の二子玉川の風景。
藤津
今は完成してしまったから、聖地巡礼しても映画と同じ景色はない。
高橋
舞台巡りされるのを拒んでるわけじゃないと思うけれど、かたくなに工事中の光景を描いていて、「今この瞬間にしか存在しない事象」を切り取っているんです。
青柳
監督の萌えが漏れ出ちゃってる映画はいいですよね。『サイダーのように言葉が湧き上がる』('20)の、女の子が抱くコンプレックスがネチネチッと描かれてるのが好き。
高橋
ちなみに映画のクライマックスは、山桜を織り込んだ俳句を詠む場面なんですけど、映画タイトルも五・七・五の俳句になっているんですよね。
藤津
エッチなアニメでいうと、『哀しみのベラドンナ』('73)は、セル画テイストではない静止画の演出を多用した独特なスタイルで、ものすごくお洒落。フランスの『魔女』という小説がベースになってます。
高橋
『傷物語』('16~'17)も主題歌がフランス語だったり、画面いっぱいに「NOIR」と「ROUGE」という文字がアクセントとして挿入されたりと、お洒落な雰囲気です。とくにシリーズの『Ⅲ』は、エログロ全開で身体へのこだわりが見事。
藤津
動物ものはどうですか?サンリオが作ったトラウマアニメ『チリンの鈴』('78)は、やなせたかし原作のヒツジとオオカミの話。悲劇的な結末だけど、絵はめちゃくちゃ愛らしい。
高橋
TM NETWORKの木根尚登さんの小説が原作の『劇場版ユンカース・カム・ヒア』('95)も犬が超かわいい。女の子が、話のできる犬と暮らしているジュブナイル的な作品です。
青柳
ジュブナイル系だと『ペンギン・ハイウェイ』('18)。少年とお姉さんのひと夏の出会いで、お姉さんが世界のメタファーになっています。
藤津
これ『銀河鉄道999』('79)を思い出すんですよ。メーテルに憧れる鉄郎とほぼパラレルで、どこかで会えるかもしれないけど今はお別れ。
青柳
結局一生会えないんですけどね。
藤津
いいんですよ、人生とはそういうものなんです。