ホテルが街への扉になる。ANAインターコンチネンタルホテル東京の「水スイート」と映画祭の夜

インターコンチネンタル ホテルズ&リゾーツが世界6都市で展開した宿泊プラン「Doors Unlocked by InterContinental」が、12月のプーケット開催をもって幕を閉じた。1027日から29日にかけて行われた東京開催において、28万円という価格で販売されたこのパッケージは、一体どのような体験だったのか。その東京の夜をレポートする。

text: BRUTUS

レッドカーペットの熱狂へ

特別な滞在の舞台となったのは、2024年に大規模な改装を完了したANAインターコンチネンタルホテル東京。通されたのは、新設された「水スイート」だ。52平米の客室に入ると、まず目に留まるのは壁面のディテールである。折り紙の“折り目”をモチーフにした幾何学模様が施され、和モダンな色彩とともに空間全体を静謐な空気で包み込む。

窓の外には赤坂・六本木の夜景が広がるが、室内はあくまで静かだ。ここは、イベントの熱狂と余韻をゆっくりと咀嚼するための、都市の隠れ家として設計されている。

滞在初日の10月27日、専用車で日比谷へ向かう。着いたのは、第38回東京国際映画祭のオープニングセレモニー。吉永小百合さんやファン・ビンビンさんら国内外のスターが集う中、本プログラムの参加者は「招待客」としてその場に迎え入れられた。

柵の外から眺めるのではなく、162メートルのレッドカーペットと同じ目線に立つ。映画祭という都市イベントを当事者として体験する時間は、このプログラムならではのハイライトだ。

翌28日の夜、ホテル内の日本料理〈雲海〉では、一夜限りの「プライベートディナー(インクレディブルオケージョン Incredible Occasion)」が開催された。ホストを務めたのは、SG Group代表の後閑信吾さん。「The World’s 50 Best Bars」で最多の受賞歴を持つ彼が掲げたテーマは「風土(テロワール)」だ。

供されたのは、日本各地の素材を用いた会席料理とカクテルのペアリングコース。たとえば、一品目の能登半島の輪島蟹と胡麻葛を使った一皿には、岩手県産のどぶろくとリンゴ、荏胡麻のリキュールのカクテルを合わせた。

葛のとろりとした食感に、米由来のなめらかなテクスチャーをもつどぶろくを選ぶことで、料理とカクテルが一体感のあるソースのように絡み合う。

またコースの締めくくりである羊羹には、抹茶と黄櫨(はぜ)を使ったネグローニを合わせる。羊羹に抹茶という、日本の茶道における王道の組み合わせをカクテルで表現した、大人の甘味体験だ。ネグローニに浮かぶ、インターコンチネンタルのロゴが刻まれた氷がゆっくりと溶け、特別な夜の終わりを美しく演出していた。

なぜ、ホテルがこれほどまでに「体験」へのアクセスを重視するのか。その背景にはブランドの出自がある。

インターコンチネンタルは1946年、パンアメリカン航空の創始者、ファン・トリッぺによって設立された。航空網で世界をつないだ彼が掲げたのは、「旅には人の視野を広げ、文化をつなぐ力がある」という信念だ。約80年にわたり、コンシェルジュを中心とした探求と専門性を育んできた蓄積が、この「
Doors Unlocked by InterContinental」に結実している。

従来の「チケット付き宿泊プラン」とは異なり、イベントの前後を含めた体験全体がデザインされている。ホテルが「泊まる場所」から「体験の入口」へと役割を広げる試みとして、機能している。

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