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いま、人々がアンビエントを求める理由。〈waltz〉オーナー・角田太郎さんに聞く

中目黒のカセットテープ専門店〈waltz〉は、魅力的なアンビエントの最新作を多く扱うお店のひとつ。アンビエントはなぜ近年注目を集めているのか、特におすすめのリリースなどを伺いました。

photo: Koh Akazawa / text: Katsumi Watanabe

ヒップホップのビートメイカーたちもアンビエントへ

1978年、ブライアン・イーノがケルンのボン空港のラウジン用に制作した『Ambient 1: Music for Airports』。フワッとした心地よいシンセサイザーの響きに、心を和らげてくれるピアノの旋律が入ってくる。こうした作品は、その後にアンビエントミュージックと呼ばれるようになり、現在に至るまで脈々と発表されている。2019年にシアトルのレコードレーベル〈Light In The Attic〉が、細野晴臣や吉村弘といった日本人音楽家が、80年代に発した知られざるアンビエントやニューエイジを掘り起こし、コンパイルした『Kankyō Ongaku 』をリリースしたことをキッカケに、世界中で静かなブームとなっている。

〈waltz〉で販売しているアンビエントからリリースされたカセット
アンビエントは新譜カセットも膨大な量がリリースされている。

そこで改めて、アンビエントの現状、そして聴き方を、カセットテープを専門的に扱う〈waltz〉の角田太郎さんに伺った。2015年のオープン時からアンビエントのカセットを販売し、LAの〈Leaving Records〉やカナダの〈Inner Ocean Records〉といったニューエイジ・アンビエント、そしてAtorisやRHUCLEといった日本人アーティストの作品を取り扱ったことから、世界中から注目を集めているショップだ。

「アンビエントの開祖とされるブライアン・イーノは、『Ambient 1: Music for Airports』制作時、実験的なシンセサイザーを多用したプログレッシヴロックのミュージシャンたちと密接な関係があり、アンビエントの制作にも大きな影響を与えたと思います。そして、90年代のアンビエントは、The KLF『Chill  Out』(1990年)を皮切りに、テクノのシーンから出てきました。そして現在は、ヒップホップのビートメイカーたちが、アンビエントやニューエイジを発表するケースが増えています」

アンビエントは一人になるための音楽

LAの〈Leaving Records〉は、J・ディラやマッドリブなどの作品を発表している〈Stones Throw Records〉が配給していたこともあるレーベル。さまざまなジャンルの音楽家やレーベルがアンビエントをリリースするせいか、世界中のミュージシャンたちもこぞって作品を発表している。現在はクラシック要素を取り入れたクラシカルアンビエント、ノイズの要素もあるドローンアンビエント、そしてニューエイジアンビエントなど、細分化されている。

「ニューエイジアンビエントに関しては、特にコンピレーション『Kankyō Ongaku』に収録された日本人の楽曲の影響が強いように思います。植物をモチーフに制作された吉村弘さん『GREEN』(1986年)は人気が高く、世界中で再発売されました。〈Leaving Records〉から発表されたグリーンハウスの『Six Songs For Invisible Gardens』は、タイトル通りガーデニングをテーマにした作品。『GREEN』の影響下にある作品だと思います。イーノのアンビエントよりも、ミニマルミュージックやニューエイジに近い響きが特徴です」

〈Leaving Records〉は、公園でヨガや瞑想のイベントを開催し、会場では所属のミュージシャンたちがライブ演奏を披露しているという。これまで以上に、多くの人がアンビエントを求めているようだ。

「コロナ禍やネットワークコミュニケーションによる抑圧によって、みんな疲れているんだと思います。〈waltz〉のお客さんは実用性を重視して、買い物に来られる方が多いと思いますが、現実から離れ、一人になるための音楽として、アンビエントを求めていると感じます。わたし個人的として、カセットとアンビエントの相性はいいと感じています。カセットは音楽が終わると、ちゃんと止まってくれますからね(笑)。安心して音楽を聴きながら寝落ちできるんです」

記事で紹介したアンビエントの一部はSpotifyでも視聴可能。