人前に立つのは苦手だけどコントが好き
人前に立つのは苦手だけど。「このタイトルを見て、自分のことかもと思った人にぜひ手に取ってもらいたい」。そう話すのは、お笑いトリオ・ハナコの秋山寛貴さん。初めて挑んだというエッセイには、初舞台のことからキングオブコント優勝まで、13年間の軌跡が記される。
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文芸小説誌『小説 野性時代』で2022年12月号から2023年11月号まで掲載された連載に書き下ろしを加えてまとめた一冊。秋山が「お笑い芸人」になるまでと、それからが、本人によるゆるいイラストとともに綴られたエッセイ集。KADOKAWA/1,595円。
「エッセイはブログを書く感覚と似ていて、楽しかったです。同じエピソードでもライブやラジオで話すときより深く書ける。でも、たまに不安になることもあります。舞台コントではウケるスベるを目の当たりにできるのに対して、文章には笑い声があるわけではないので」
ネタは日々のメモから。気になったことは、小さなことでもスマホで記録しておくそうだ。
「クスッとしたり、おかしいなって思ったことをメモします。最近だと、早朝に家を出たらコロコロチキチキペッパーズの西野がでっかいヘッドホンとサングラス掛けてウキウキで歩いていった、っていう2行が……」
お笑いへの憧れは学生時代から強かったという秋山さん。人前が苦手でありながらも、なぜ芸人になる道を選んだのか。
「美術系の学校に通っていたので、美術に関わる仕事に就くと思っていましたね。いざ進路を考えると、20代半ばになってお笑いの世界を覗いとけばよかったなって後悔する未来が見えて怖かった。それなら一回見てから、やっぱり自分には向いてないなって思えればいいかなと、とりあえず養成所に入ったのが一歩目です。
芸人仲間にも自分に似ている人はいないなと思う。明るくはないけれど、暗いというわけでもない。自分のキャラクターには悩み続けていますが、今回エッセイと向き合って、少し解けた気がします。“おとなしい”というのが一番しっくりくる。あまり欲求がないんです。面白いものを作ったときに、自分が表にいなくてもいい。街中でも指はさされにくいですね。うまく潜んでいます」
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