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北東北でイノベーションを起こす、 発酵のニュースターを訪ねて〜〈稲とアガベ醸造所〉編〜

伝統的味噌醤油の基礎技術を革新し、従来の蔵からは想像もつかない料理を出す醸造所。そして、新規参入が不可能といわれる日本酒の世界で、新たな酒のジャンルを切り開く醸造所。湯沢から男鹿へ、革新的な秋田の醸造元を訪ねる旅。〈ヤマモ味噌醤油醸造元〉編はこちら

photo: Shin-ichi Yokoyama / text: Ichico Enomoto

若き醸造家が描く、日本酒と男鹿の未来

〈ヤマモ味噌醤油醸造元〉を訪れた翌日は男鹿半島へ。湯沢から北西に車を走らせること約1時間40分、次なる目的地は〈稲とアガベ醸造所〉。昨日のディナーでも提供されたどぶろくの醸造元だ。ショップでは販売する酒の試飲もできるほか、酒粕を使ったソフトクリームなども。夜はレストランとしても営業している。

秋田〈稲とアガベ醸造所〉外観
男鹿駅の旧駅舎を醸造所に。現在の駅も100mほど先にあるので、人が立ち寄りやすい。

代表の岡住修兵さんは、酒で起業したいと、秋田市の〈新政酒造〉で酒造りを学んだ人物。その酒造りで特徴的なのは、食べる米と同程度にしか米を磨かないということ。

「お米を磨くことで価値が高まる日本酒も否定はしませんが、もったいないし、価値観の転換点を作らないと。そもそもなぜお米を磨くのかというとお米の外側のたんぱく質が雑味につながるから。でもそのたんぱく質のもとは肥料なんですよね」

岡住さんは完全無肥料・無農薬の自然栽培の米で酒を造っている。試飲してみると、ほとんど米を磨いていないとは思えないほど雑味がなく、きれいな旨味。どぶろくもクセがなく、甘味と酸味のバランスもいい。

秋田〈稲とアガベ醸造所〉創業者・岡住修兵
2億円の融資で醸造所を設立。大きなタンクが並ぶ。

男鹿の風土を醸すクラフトサケ

そもそもここで造っているのは「その他の醸造酒」。法律の壁があって新規参入ができないため、〈稲とアガベ〉では「その他の醸造酒」免許で日本酒に近いものを造っているのだ。日本酒の定義は米と米麹と水を発酵させて漉(こ)したもの。例えばそこから漉すという工程を引けばどぶろくになる。または何かしら原料を足す。蔵の名にもなっているアガベシロップや、ホップを足した酒を造っているそう。

そしてこれらを「クラフトサケ」と名づけ、同じような酒を造っている全国7社で〈クラフトサケブリュワリー協会〉を発足。岡住さん自ら会長を務め、新しいジャンルを作って認知度を高める活動を展開しているという。ただ、あくまで目指すのは法改正。

「新規参入者がいて新陳代謝が起こり、イノベーションが起きるのが健全な姿。競争が産業を育てると思います。おかしい法律は変えないと」

発言し続けてきたことで、行政が日本酒特区の創設に向け動きだすなど、実現の手応えを感じているという。「秋田の人に恩返ししたい」と言う岡住さんは、事業を拡大させることで雇用を生み、日本酒と男鹿の未来を作りたいと話す。

味噌や醤油だけでなく、こんな表現の仕方があるのか!と驚かせてくれた蔵元と、常識を打ち破り、日本酒業界に風穴を開ける若き醸造家。2人との出会いはとても刺激的で、発酵の概念のみならず、ものの見方が変わるような旅だった。

秋田〈稲とアガベ醸造所〉創業者・岡住修兵、秋田〈ヤマモ味噌 醬油醸造元〉のシェフ・高橋
「尊敬する」というヤマモの髙橋さんと新たなどぶろくを試作中。情熱的な2人の話は尽きない。

SPOT DATA

MODEL PLAN

〈1日目〉
11:45 秋田空港着。レンタカーを借りる。
13:00 〈くらを〉で昼食をとり増田町を散策。
16:00 翌日の朝食の食材を買い出し、〈草木ももとせ〉にチェックイン。のんびり過ごす。
18:00 〈ヤマモ味噌醤油醸造元〉でディナー。

〈2日目〉
09:00 宿のキッチンを使って自炊で朝食。
10:00 ヤマモでお土産を買って、出発。
12:00 〈縫人 nuito〉で買い物。
12:30 〈稲とアガベ〉へ。「男鹿プルドック」をテイクアウト。
13:00 寒風山回転展望台で八郎潟や海岸線を眺め、持ち帰ったプルドックを。
14:00 〈なまはげ館〉でなまはげに出会う。
15:00 なまはげグッズを手に入れ、秋田空港へ。車を返却して帰路へ。

TRAVEL MAP

秋田県の地図

秋田空港から湯沢の〈ヤマモ味噌醤油醸造元〉までは、車で約1時間。湯沢から男鹿の〈稲とアガベ醸造所〉までは車で約1時間40分。そこから秋田空港までは車で約1時間。