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豊穣なアイヌ文化に出会う、道南ミュージアム巡りの旅 〜後編〜

北海道ではアイヌ文化に触れてみたい。今回はアーティストのマユンキキさんと一緒にアイヌ民族にまつわる2つの博物館を巡ることに。さらに足を延ばして木彫り熊のミュージアムまで、いざ道南ミュージアムの旅へ。「豊穣なアイヌ文化に出会う道南ミュージアム巡りの旅。〜前編〜」も読む

photo: Yayoi Arimoto / text: Ichico Enomoto

平取町立二風谷アイヌ文化博物館(北海道/平取町)

アイヌの人々が多く暮らす町で触れる
貴重なローカルの文化。

せめてもう1ヵ所は博物館を訪れてほしいというマユンキキさんと次に向かったのは、白老から車で約1時間半、平取町にある平取町立二風谷アイヌ文化博物館。ここには沙流川流域のアイヌ文化にまつわる資料が数多く収められている。

博物館の収蔵品は、萱野茂が収集・製作した民具を購入、または寄贈されたものも多い。萱野は二風谷に生まれ、アイヌ文化研究者としてアイヌ文化や言語の保存に尽力した人物で、〈萱野茂二風谷アイヌ資料館〉を開設した。この二風谷という地域がほかと大きく異なるのは、現在も多くのアイヌの人々が暮らし、和人よりも多数派を占める地域であるということ。この博物館では、アイヌの人々が実際にこの地域で使っていたものや受け継がれてきたものが、彼ら自身によって集められ、展示されているのだ。

また「アイヌ伝統文化の今日的継承」を掲げ、地域一体となって文化を継承していく取り組みの拠点ともなっている。マユンキキさんは「この地域のものを丁寧に収集して展示している。いろいろな博物館を見比べることで地域差がわかるということは大切」と言う。

また、二風谷はイタ(木彫りの盆)やアットゥシ(樹皮で織られた織物)などの工芸が盛んで、現代の作家が作ったものも、作家名がわかるように展示されている。博物館周辺には民芸店が多く立ち並び、作家に会いに行けたり、民芸品を買ったりすることもできる。いまもアイヌ文化が脈々と息づいていることが感じられるはずだ。

八雲町木彫り熊資料館(北海道/八雲町)

木彫り熊の世界を知ることができる、
珍しいミュージアム。

北海道の木彫り熊といえば、サケをくわえたお土産品がよく知られるが、それらは旭川などでアイヌの人々によって彫られたものが多い。それとはルーツが異なるのが八雲町の木彫り熊だ。八雲には全国的に珍しい木彫り熊の資料館がある。

北海道〈八雲町木彫り熊資料館〉館内

そもそも尾張徳川家第19代当主の徳川義親が毎年八雲に熊狩りに訪れており、大正11(1922)年にスイスを旅行した際に購入した工芸品を参考に、農民たちに農閑期の副業として熊を彫ることを勧めたのだという。その後、品評会を開催するようになり、昭和3(1928)年には八雲農民美術研究会を結成するなど、町を挙げて木彫り熊の興隆に力を入れてきた。展示では八雲の木彫り熊の名手たちの作品を中心に、旭川など道内のほかの地域の木彫り熊も展示。

大きな資料館ではないが、その特徴や歴史などを体系的に展示しているのは貴重なミュージアムといえる。また、周辺の飲食店でも木彫り熊を展示しているところがあるので、ぜひ立ち寄ってみて。

ここを見たあとにウポポイを訪れたら、また違った見方ができるかもしれない。マユンキキさんはウポポイについて「みんながいろいろ考えたり、話したり、提案できるようなきっかけになるといいと思う」と話す。ほかの博物館も訪れながら、ウポポイも何度も訪れることで、それぞれが考えを深めていく。その第一歩となるようなミュージアムの旅だった。