名盤に名サイドメンあり、今も新しい愛聴盤の10枚
石若 駿・選
今回の10枚は僕が若い頃にハマって、かつ30歳を迎えた今も聴き続けているアルバムを基準に選びました。
もし今回紹介した10枚の中で気になる音楽に出会えたら、そこからさらにとことんディグって、面白い音楽を見つけてください。一枚お気に入りのアルバムを見つけたら、そこから派生してまた一枚また一枚と、興味の枝葉を広げていく楽しさを知ってもらえると、すごくうれしい。
参考までに僕のやり方を披露すると、気に入ったアルバムのサイドメン、ドラマーやベーシストがほかに誰のアルバムに参加しているのかとか、自分のリーダーアルバムは出しているのかなどを調べていくんです。そうすると、その先に興味をそそられるアルバムと出会える可能性が高くなる。僕はそうやって、10枚すべてと出会いましたから。この10枚は僕の中では間違いなくつながっていて、相関図を作ると面白そうです。
『Standard Of Language』ケニー・ギャレット
ドラムがクリス・デイヴ。彼はヒップホップとジャズをミックスしたドラマーという認識が一般的だと思うけど、アルトの巨人、ケニー・ギャレットのこの作品では、まさにジャズドラマーというキレッキレのドラムを披露しています。選曲も素晴らしい。2003年作品。
『Beyond』ジョシュア・レッドマン
再生し始めた瞬間「ウワァ、何じゃこりゃ」とひっくり返ったアルバム。オーソドックスな編成のカルテットで心地よいグルーヴなんだけど、バックはずっと変拍子が続いてるという、実にBeyondな作品。当時も話題になったけど今聴いても新鮮です。2000年作品。
『Hard Groove』ザ・ RH ファクター
ロイ・ハーグローヴはオーソドックスでソウルフルなジャズを吹く一方で、ディアンジェロやエリカ・バドゥとコラボしてファンキーで斬新なサウンドを聴かせた。後者の代表作であるこのアルバムを聴かずに、21世紀のジャズは語れません。ジャケも◎。2003年作品。
『Mama Rosa』ブライアン・ブレイド
憧れのドラマー、ブライアン・ブレイドのリーダーアルバムですが、ギターを片手にフォーキーな歌を歌っています。でもそれが贔屓目(ひいきめ)じゃなくカッコイイ。奥行きあるサウンドで、風が渡る南部の風景が目に浮かぶ。23年4月には初のアナログ盤も出ます。2009年作品。
『Into The Blue』ニコラス・ペイトン
タイトルもジャケもブルー。録音もかなりスモーキーで、青みがかっているような音像。ちょっと共感覚的なイメージもあって、ジャズという音楽の幅広さを感じてもらえれば。ドラマーは「ロイ・ヘインズの孫」と喧伝されていたマーカス・ギルモア。2008年作品。
『Yesterday You Said Tomorrow』クリスチャン・スコット
ジャズミュージシャンがジャケットに細いネクタイでオシャレしてというスタイルから、チェックのシャツをラフに着こなすような方向に転換したきっかけになったアルバムだと、僕は勝手に思ってて。クリスチャンもトランペッターらしい存在感がある。2010年作品。
『When The Heart Emerge Glistening』アンブローズ・アキンムシーレ
1曲目が始まってすぐのサックスのソロが右から左へ移動していくんです。「やりおったー!」って感じ。そういうテクノロジーを取り入れるスタイルや社会的なメッセージを込める姿勢にも、影響力を感じます。僕らの世代はみんな通ってるアルバム。2010年作品。
『Growing Season』レベッカ・マーティン
天才シンガーソングライターの名作。ブライアン・ブレイドがドラムを叩き、世界観も『Mama Rosa』に通じる印象。カート・ローゼンウィンケルがギターとピアノやオルガン、ラリー・グラナディアがベース、レベッカがアコギと歌。今もヘビロテ中。2008年作品。
『Highway Rider』ブラッド・メルドー
室内楽的オーケストラと共演した、ほとんどピアノ協奏曲を聴いてるようなアルバムをご紹介。僕らの世代はみんな「The Art Of The Trio」シリーズにハマったけど、革新的なサウンドとともに圧倒的に素晴らしい音楽家ぶりを見せつけられました。2010年作品。
『Double Booked』ロバート・グラスパー
『Brack Radio』が広い世界を舞台にした傑作なら、『Double Booked』はよりコアな部分の強度を感じられる傑作。トリオとしての前半とエクスペリメントでの後半、どっちも強力。両方に参加しているドラムス、クリス・デイヴの存在感が光ります。2009年作品。
“新しいレジェンド”の“新しい古典”を10枚
柳樂光隆・選
ロバート・グラスパーがなぜメディアでシンボリックに扱われるかというと、その音楽の新しさがわかりやすかったからだと僕は思っている。ジャズとヒップホップがミュージシャンの技術やアイデアによって融合していくプロセスは、誰もが語りやすい物語でもあった。
一方で、あまりメディアで紹介されることはなくとも、ジャズの進化に貢献した革新的なアーティストはたくさん存在していた。その中にはジャズを超えて広く影響を与えたミュージシャンもいたし、ジャズコミュニティの中にとどまりながらも深い影響を与えたミュージシャンもいた。
ここで挙げているのはそんな先人たちの名作だ。知名度は高くない作品もあるが、これらはどれも“新しい古典”と呼んでいいような作品ばかり。ここで挙げたアーティストが与えた影響は、現在のシーンから頻繁に聴き取れるはずだ。
『Central Avenue』ダニーロ・ペレス
故郷パナマをはじめ、カリブ海のキューバ、南米のブラジルやアルゼンチンなど、世界中のリズムを探求し、現代のジャズに持ち込んだ重要人物がピアニストのダニーロ・ペレス。演奏家としてだけでなく、教師としてもリズム面でのジャズの進化に多大な貢献をした。
『Allégresse』マリア・シュナイダー
ジャズ作曲家マリア・シュナイダーの登場により、大編成のジャズは90年代以降、大きな進歩を遂げた。クラシックやブラジル音楽を大胆に取り入れた色彩豊かなサウンドで繊細に情景を描き出す作風は、挾間美帆の背中を押し晩年のデヴィッド・ボウイを魅了した。
『The Bandwagon』ジェイソン・モラン
ロバート・グラスパーの高校の先輩でもあるピアニストのジェイソン・モランの音楽は、戦前から現代までジャズの100年を超える歴史を奏でるように鍵盤を叩き、そこにヒップホップや現代音楽までを接続する超個性的なもの。好きなファションブランドはsacai。
『Flow』テレンス・ブランチャード
トランペット奏者であり、スパイク・リー映画に欠かせない作曲家であり、メトロポリタン歌劇場史上初めて新作オペラが上演された黒人作曲家。社会的なテーマを映像的なサウンドで表現するスタイルは、グラスパーをはじめ彼が起用した次世代に受け継がれている。
『Gently Disturbed』アヴィシャイ・コーエン
イスラエル人のアメリカ進出への道を切り開いた圧倒的なテクニックのベースだけでなく、故郷由来の旋律や複雑怪奇な変拍子を駆使した独創的な楽曲でも高い評価を得た。新人発掘にも定評があり、本作でドラマーのマーク・ジュリアナの存在を世界に知らしめた。
『Esperanza』エスペランサ・スポルディング
キャッチーなメロディと複雑なリズムとハーモニーの曲を、テクニカルなベースを弾きながら高度なスキャットを交えて歌う天才。とにかく何をやっても完成度が高いのにそれを楽しく聴かせてしまうマジカルな才能は、ジャズの可能性をどんどん拡張している。
『Historicity』ヴィジェイ・アイヤー
奇才スティーヴ・コールマンが独自理論を掲げ、80年代から追求していたポリリズムと奇数拍子の実験を引き継ぎ、現代ジャズにリズム面でのアップデートをもたらしたピアニスト。フライング・ロータスやデトロイトテクノを生演奏でカバーするセンスも併せ持つ。
『In A Dream』グレッチェン・パーラト
様々なジャンルが溶け合い、演奏も作曲も高度になった現代のジャズに、最も求められたボーカリストがグレッチェン・パーラト。圧倒的なリズム感と楽器のように声をコントロールする技術、繊細な情感のニュアンスを巧みに捉えて歌える表現力は群を抜いている。
『Cosmogramma』フライング・ロータス
自分の音楽にジャズミュージシャンを加えるだけではなく、ジャズミュージシャンの演奏の特性を限りなく生かすことで自身の音楽を引き上げることに成功したLAビートミュージックの奇才。本作ではサンダーキャットの声と演奏の大いなる可能性を炙(あぶ)り出した。
『In The Moment』マカヤ・マクレイヴン
ジャズドラマーとしてクリス・デイヴのようにヒップホップのビートを生演奏に再現できる技術を持ち、プロデューサーとしてはマッドリブのように変幻自在に音楽を解体再構築する。マカヤは生演奏とプロダクションを並行させる、新たな潮流を先導している。