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詩人・川口晴美の100回でも観たいアニメ映画『劇場版 TIGER & BUNNY -The Rising-』

あのセリフや作画を味わうためにじっくりと、あるいは日常の合間に“ながら見”で。好きな作品は何度でも観たくなるものです。「一番たくさん観たアニメ映画」を、川口晴美さんに語ってもらいました。

text: Akiko Yoshikawa

シュテルンビルト市民として
ヒーローを応援する快感

もともと、アニメやマンガが大好きでよく観ていました。「TIGER & BUNNY」(以下、タイバニ)のテレビシリーズが始まったのは2011年で、東日本大震災直後の4月からスタート。私は1話から観ていたわけではなく、たまたまテレビで流れていたのが最終回目前の24話でした。

とにかく吸引力があって、沼へと“垂直降下”!リアルタイムで視聴しながらコメントできる公式配信に参加すると、みんなで同じ話を観ながらコメントをつけあうというものがあったのですが、みなさんのコメントが面白くて、ヒーローたちの活躍を一緒に応援できるのが楽しかった。

2011年は東日本大震災のほかに、個人的にも辛い出来事があり、気持ちが塞ぎがちだったんですね。再放送のたびに繰り返し観て、何度も泣いて、笑って……一人でそんな状態になっているのが気恥ずかしいんですけど、ここまで揺り動かされる体験を味わえたのが、とても楽しかったんです。

あまりにも好きすぎて、いつかタイバニをモチーフに詩を書きたいと思うようになりました。好きな花や好きなひとを詩に描くように、好きなアニメの詩を書いたっていいはずです。そんなときに、「現代詩手帖」で1年間の連載詩を書く機会をいただきました。

私は何年も詩を書いてきましたが、自分のことはほとんど書いてこなかったんですね。でも、大好きなタイバニのことを考えながら書いてみたら、自分の支えになるんじゃないか、と。実際、書き始めてみると本当に支えになって、ようやく自分と向き合うことができたんです。こうして書いた詩は、『Tiger is here.』(思潮社)という一冊の詩集になりました。

『Tiger is here』
『Tiger is here.』
「詩の言葉は跳躍できるだろうか。(…)星座という名の街をそれぞれの葛藤を抱えつつ跳躍していくキャラクターたちの青く光る軌跡を、強く、深く、思い浮かべていました」(あとがき)。イメージのなかで増殖してゆく野性。「現代詩手帖」で話題を呼んだ連作「Tiger is here.」を含む、この先の未来のための22篇。装画は漫画家・イラストレータの山中ヒコ。2,750円/思潮社。

友人たちと、部活のような感覚で
何度も何度も劇場へ

『劇場版 TIGER & BUNNY -The Rising-』が公開されたのは2014年。公開直前に流れてきた予告編を見ると、新しいキャラクターが出てきたり、虎徹さんとバーナビー・ブルックスJr.のコンビがなくなるんじゃないかというようなアオリがあったりして、公開前から気が気でなく……。

もちろん前売り券は買っていたのですが、公開日の0時過ぎの最速上映があると知り、チケットを思わず取ってしまって。翌朝は記録的な大雪の日だったのですが、もちろん行かないという選択肢は一切なく、数時間前に再速上映を一緒に観た友人にもうひとりが加わって、また映画館へ。

映画館を出た後は3人で語り合いました。タイバニって、テレビシリーズも映画も、想像できる隙間を残してくれている作品なので、その隙間についてみんなで語れるのが楽しいんです。語っているうちに、「もう一度観たい」「見逃していたから確認しなきゃ!」となって、何度も観直していました。

さらには、だんだん部活みたいになってきて、仕事帰りに映画館に寄っては元気をもらいにいくように。この作品はアクションの動きや色彩が特に美しいので、映画館の大画面で観ると、繰り返し味わいたくなるアトラクション的な快感もありましたね。

『劇場版 TIGER & BUNNY -The Rising-』
近未来都市シュテルンビルトを舞台に、超能力者“NEXT”がヒーローとして活躍。シリーズ劇場版2作目。バディの2人が2部リーグから1部に復帰と思いきや、虎徹はクビになり、バーナビーは別のコンビを組むことに。2014年/監督:米たにヨシトモ。
©朝日新聞社/テレビ朝日/KADOKAWA/アスミック・エース

ヒーローにも私たちにも、
「続けてきたからこそできること」がある

タイバニのテレビシリーズが始まってから10年が過ぎ、今年にはNetflixで念願の2期が配信されました。ヒーローたちも当初に比べると、成長してきたなと実感しています。一方の私も、大学3年の頃から詩を書き始めて随分長くなりました。特に華々しく評価されたわけではありませんが、私にとって詩を書くことは普通のことなので、途中で書かなくなることはありませんでした。

でも、私はずっと書き続けてきたからこそ、今書けるものがあると感じています。タイバニでいうと、成績がぱっとしなくても、賠償金を背負ってもヒーローを続けてきた虎徹さんのように。でも、虎徹さんもずっと続けてきたからこそ、バーナビーというパートナーや仲間に出会えたと思うんです。

また、虎徹さんは助けを求める人がいれば、手を差し伸べるヒーローでもあります。私は、虎徹さんみたいに直接何らかの行動を起こすわけじゃないけれど、私が詩を書くことで、声を出せなかった人が、「こういうふうに言いたかった」と思ってもらえることもあるんじゃないかと思うんです。

『やがて魔女の森になる』
『やがて魔女の森になる』
話題となった「世界が魔女の森になるまで」(「早稲田文学増刊『女性号』初出)を収録。映画『シン・ゴジラ』や末満健一によるオリジナル舞台作品『TRUMP』シリーズをイメージした作品も。2,640円/思潮社。