「最初にオファーのお話をいただいたのが2021年の暮れでした。その時に2つのリクエストをさせていただきました。1つ目は、選曲を担当させてもらうこと。通常のアニメでは声優のセリフの演出、効果音や使用する音楽に関しては、音響監督の方が統括するのが基本なのですが、今回に関しては音楽の監修は僕の方ですべてやりたい、ということをリクエストしました」
音楽を作るにあたり、坂東が実現したかった音響を実現するために大きかったのが2つ目のリクエストだったという。
「そして、もう一つのリクエストは音響全体についてです。今回の目標は何より、音楽だけではなく、セリフ、効果の3要素を高い次元で共存させることでした。そこでMA(マスターオーディオ)という工程でセリフ、効果と音楽のミキシングを佐藤宏明さんに兼任していただいています。
佐藤さんのミキシングは本当に驚異的で、セリフの子音一つ一つの細部まで徹底的に追い込み、全キャラクター、全シーンで、言葉単位のベストの音質を探って、別々のEQ(イコライザー)のオートメーションを細かく書いていらっしゃるほどです」
ここまで細部まで徹底的に作り込んだ音響は、国内のみならず、世界にも届けたいという思いで作られているという。
「またセリフ、効果、音楽すべてが合わさった状態でもテレビ、ノートPC、ヘッドホン、スピーカー複数種などありとあらゆる端末を使ってのチェックをされ、微調整されるほどで、これは通常の何十倍もの時間がかかっています。Xで世界で同時視聴ができるということもあり、日本から発信しても世界に誇れるように、徹底的に音響もこだわり抜いています」
『怪獣8号』で目指した方向
今回、音楽の目指したい方向として、ベンチマークとなった作品があった。
「僕は『怪獣8号』は怪獣や特撮的な要素を含んでいるのはもちろんのことですが、同時に英雄譚だと考え、音楽を練っていきました。現存のヒーローのイメージだと、少し前のマーベル作品、ベンチマークにしたのは『ブラックパンサー』あたりでしょうか。
本編の音楽を担当したルドウィグ・ゴランソンのスコアと、ケンドリック・ラマーが仕切った同作のイメージアルバム『The Album』の音楽とがシームレスに映画とつながり、広がったと思っています」
作画や演出などアニメ全体のクオリティの高さはもちろん、スコアリングにも仕掛けが多く、そのアイデアには驚愕する。
「完成した映像を見ながら音楽をつけていく、フィルムスコアリングという方法を取りました。監督とは入念な打ち合わせして、そのエピソードの中でどう演出をしたいかをリクエストしてもらいました。現時点で参加ミュージシャンの部分で発表できるのは、毎回豪華なゲストに参加してもらっていること。
例えば1話目にはスナーキー・パピーの小川慶太さんがパーカッション、MELRAWさんにサックス、石若駿くんにドラム、そしてKing Gnuの新井和輝くんにもベースで参加してもらっています。そして、驚くような方にも挿入歌を担当してもらっています。楽しみにしていてください」