〈ギンザ・グラフィック・ギャラリー〉で開催中の上西さんの個展は、異なる2つの空間に魅せられる。まず地階には、14年間のキャリアで手がけてきたアーカイブが集結。〈麻布台ヒルズ〉などの商業施設のロゴや広告に販促物、〈ザ・ノース・フェイス〉や〈エルメス〉などのファッションブランドキャンペーン、〈Perfume〉らミュージシャンのCDやグッズ類、卓球やフェンシングの大会ポスター、展示の告知物や会場グラフィック、さらには書籍やムービーなどなど、上西さんがデザインした多種多様のアイテムが広がる様子は、ミュージアムショップさながらのワクワク感。
「〈電通〉所属時の大きなプロジェクトや、たった一人でデザインしたものなど、案件の規模も内容も様々です」と上西さん。
「自分の名前で仕事を依頼される人になりたいと、ずっと思っていたんです。そのために自ら手と頭を動かし、経験を蓄積していくことを大切に励んできました。人生を作るのは、ほかならぬ自分ですからね」
上西さんの笑顔はとっても朗らか。これまでの創作物を振り返って浮かんだのは、依頼と向き合う自分だったという。
「クライアントごとの希望や課題に対し、こうすると良くなる、を私なりに突き詰め、嘘のない答えを出してきました。そうすることで、自分らしさも自然と表れたアウトプットとなって世に放たれ、それを見て気になった方が依頼をしてくださる。仕事が仕事を呼ぶ循環が生まれていきました」
一方で、1階の展示内容は、クライアントのいない作品群。「写真はどこからグラフィックデザインになるか」という関心のもと、大学生の頃から自由に撮影してきた写真をグラフィックに落とし込んだものやCGを、印刷物として展示している。
「答えを出す重要性を言ったものの、実は疑問の気持ちもあって。仕事では、興味のない人にも短時間で理解してもらえるよう、削ぎ落としたわかりやすいものを提示しないといけない。でもそれだと、こぼれ落ちるものがあるし、世界はもっとあやふやで、多面性や複雑性を孕(はら)んでいるでしょう?なので、綺麗の中に気持ち悪さや怖さを入れたり、相反していて曖昧な、ゆらぎある表層をそのまま展示しています」
地階にある仕事の数々は、上西さんが区切りをつけ導いた答えと、生み落とした制作物。全社会人のお手本になり得る“結果”が映し出されるが、1階の作品は、上西さんいわく「純粋で生な嗜好の断片」(なので会期中も変化予定)。これらは、合理的思考を求められる仕事人の心を刺激する。