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すべての作り手たちへ。100歳の染色家・柚木沙弥郎さんからのメッセージ

染色家、アーティストの柚木沙弥郎さん。100歳になる直前に、かつて学長も務めた美大の美術館で開催された自身の回顧展を訪れた。そして迎えた誕生日、柚木さんからもらった、すべての作り手たちへの言葉。

photo: Norio Kidera / text: Akemi Bonkobara

布いっぱいに配された大胆な幾何学模様、カラフルな手と手のしわのモチーフ、繰り返される色と形。エネルギー溢れる色彩と、躍動感ある独創的な模様に彩られた染色布。〈女子美アートミュージアム〉で開催された『柚木沙弥郎の100年 創造の軌跡』展に、孫の丸山祐子さんと訪れた柚木沙弥郎さん。

注染布や型染布など初期作品から近作まで。ほかにアイデアスケッチのスクラップブックなど、柚木さんの創造の源に触れる展示や、長年携わった女子美工芸科の記録写真、ノートなど、取り上げられることが少ない指導者としての資料の展示も。

柚木さんは会場を見渡すと「夢中でやってきたんだね。こんなにたくさん、よく作ったもんだ」と語り、自身の足跡を振り返っていた。

染色家、アーティストの柚木沙弥郎
2022年秋、神奈川県相模原市の〈女子美アートミュージアム〉で『柚木沙弥郎の100年 創造の軌跡』が開催された(現在は終了)。

毎日、手で作る
面白いと感じる

大きな窓から自然光が入るアトリエと居心地のよいリビングルーム。この秋、100歳を迎えた柚木さんは、お気に入りのモノに囲まれた空間で、日常にある“面白いと思うこと”を見つけながら、日々「作ること」と向き合っている。

20代で柳宗悦が提唱する「民藝」と出会い、工芸作家の芹沢銈介の型染カレンダーに魅せられて染色家を志した柚木さん。女子美術大学で教鞭を執りながら、「注染」や「型染」という表現を駆使し、75年にわたり独自の作品を作り続けてきた。その間、染色以外にも、柚木さんはさまざまな表現に挑戦。ポスターやロゴなどのデザインも数多く手がけ、70歳を過ぎてから絵本や版画の制作にも取り組んだ。

「自由になったのは80歳を越えてから」と語り、97歳でパリでの展覧会も成功させた。柚木さんの周りには、国や世代を超えて、さまざまな人々が集まり、創作の場はさらに広がり続けている。

「いつでも、今やっていることを面白いって感じながらやることが大事。絵を描いたり、型を彫ったり、紙を切ったり、のりで貼ったり。うまくいかないこともあるけれど、そういうことも含めて手で作ることは面白い。こうして、今も好きなことを仕事にできているというのは、幸せなことだなと思うね」。そう言って、両手をパッと広げて見せてくれた。

染色家、アーティストの柚木沙弥郎
2022年10月17日、100歳の誕生日。

毎日がね、新しい今日なんだよ。
今日をね、いかに大切に思うか、
それによってその日の仕事ができるわけ。
それを積み重ねていけば一生涯の仕事なんだよ。
今日という、一番新しい自分の境地を生かす。
飛んでいかなきゃいけない。
飛び出せ、毎日ね。
そういうのを毎日毎日続けていけば
生涯っていうのはいい人生になると思うな。
僕は今そんな気持ちですね

柚木沙弥郎
女子美アートミュージアムで開催された『柚木沙弥郎の100年 創造の軌跡』の様子